ゆめにっき
死んでは戻り、死んでは戻りを繰り返している。
◆
「いけないね、お嬢ちゃん。俺の苦労も考えな」
「何の苦労をしているというの」
「そりゃま、こうして、死んでいるのにお嬢ちゃんの相手をする苦労さ」
「………」
樹海は今日も雨。かさのエフェクトを設定した私はあの死体を覗き込んでいる。
「ねえ」
「何だい」
「止めてくれないの」
「お嬢ちゃんがそう望むならね」
「……そう」
で、
██回目。
◆
死んでは戻り、死んでは戻りを繰り返している。
「いけないね、お嬢ちゃん。あいつの苦労も考えな」
「あいつって誰」
「そりゃまあ、ねえ」
「………」
樹海は今日も雨。かさをくる、と回してみる。
水滴が散った。
「つめたっ……なーんて、冗談さ」
「………」
「もう冷たいなんて感じる感覚残ってないからね」
「そう」
あいつって誰。
「〝先生〟だよねえ。いくら避けても通れない、因果の塊みたい、な、」
私は膝をつく。
「あなたを因果にできないの」
死体はびっくりしたかのようにもう動かない瞼を動かした。
「そりゃまた、どうして」
「………」
██回目。
◆
死んでは戻り、死んでは戻りを繰り返している。
「いけないね、お嬢ちゃん。ね……改変したね」
「………」
「〝運命〟じゃないものを運命にしても無駄さ。俺は死んでる。君に何もしない、してやれない」
私はしゃがみ込んで死体を覗き込む。
「……ねえ」
「何かな」
「止めてはくれないの」
「………」
珍しく黙り込む死体に、私は、
「言って」
迫るように言葉を落とす。
「何を」
「私は、私を、止めて。死なないで、って、言って」
「それは命令かい」
「うん」
「わかった。プロトコルを発動する、〝死なないで〟」
ノイズが走る。因果の収束。
◆
相変わらずの、樹海。
雨が降っている。
「………」
「ああ。先に進めたんだね。……おめでとう」
「………」
私は傘をくるりと回す。
「……どうしてあなたを因果にしたと思う」
「……それ、答えなきゃダメ?」
動くはずもない首を傾げる、死体。
「言って」
「――が――だから」
「正解」
「陳腐~!」
「いいでしょ、陳腐でも」
「陳腐なラブストーリーが世界を変えることもあるって言葉あるもんねえ!」
「ないけどね」
「辛辣だねえ、お嬢ちゃん。ま……これからも気が向いたら遊びに来ると良い」
「……うん」
因果の収束。
私の█は止まった。
〔了〕
◆
「いけないね、お嬢ちゃん。俺の苦労も考えな」
「何の苦労をしているというの」
「そりゃま、こうして、死んでいるのにお嬢ちゃんの相手をする苦労さ」
「………」
樹海は今日も雨。かさのエフェクトを設定した私はあの死体を覗き込んでいる。
「ねえ」
「何だい」
「止めてくれないの」
「お嬢ちゃんがそう望むならね」
「……そう」
で、
██回目。
◆
死んでは戻り、死んでは戻りを繰り返している。
「いけないね、お嬢ちゃん。あいつの苦労も考えな」
「あいつって誰」
「そりゃまあ、ねえ」
「………」
樹海は今日も雨。かさをくる、と回してみる。
水滴が散った。
「つめたっ……なーんて、冗談さ」
「………」
「もう冷たいなんて感じる感覚残ってないからね」
「そう」
あいつって誰。
「〝先生〟だよねえ。いくら避けても通れない、因果の塊みたい、な、」
私は膝をつく。
「あなたを因果にできないの」
死体はびっくりしたかのようにもう動かない瞼を動かした。
「そりゃまた、どうして」
「………」
██回目。
◆
死んでは戻り、死んでは戻りを繰り返している。
「いけないね、お嬢ちゃん。ね……改変したね」
「………」
「〝運命〟じゃないものを運命にしても無駄さ。俺は死んでる。君に何もしない、してやれない」
私はしゃがみ込んで死体を覗き込む。
「……ねえ」
「何かな」
「止めてはくれないの」
「………」
珍しく黙り込む死体に、私は、
「言って」
迫るように言葉を落とす。
「何を」
「私は、私を、止めて。死なないで、って、言って」
「それは命令かい」
「うん」
「わかった。プロトコルを発動する、〝死なないで〟」
ノイズが走る。因果の収束。
◆
相変わらずの、樹海。
雨が降っている。
「………」
「ああ。先に進めたんだね。……おめでとう」
「………」
私は傘をくるりと回す。
「……どうしてあなたを因果にしたと思う」
「……それ、答えなきゃダメ?」
動くはずもない首を傾げる、死体。
「言って」
「――が――だから」
「正解」
「陳腐~!」
「いいでしょ、陳腐でも」
「陳腐なラブストーリーが世界を変えることもあるって言葉あるもんねえ!」
「ないけどね」
「辛辣だねえ、お嬢ちゃん。ま……これからも気が向いたら遊びに来ると良い」
「……うん」
因果の収束。
私の█は止まった。
〔了〕
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