ゆめにっき

 死んでは戻り、死んでは戻りを繰り返している。



「いけないね、お嬢ちゃん。俺の苦労も考えな」
「何の苦労をしているというの」
「そりゃま、こうして、死んでいるのにお嬢ちゃんの相手をする苦労さ」
「………」
 樹海は今日も雨。かさのエフェクトを設定した私はあの死体を覗き込んでいる。
「ねえ」
「何だい」
「止めてくれないの」
「お嬢ちゃんがそう望むならね」
「……そう」

 で、
 ██回目。



 死んでは戻り、死んでは戻りを繰り返している。

「いけないね、お嬢ちゃん。あいつの苦労も考えな」
「あいつって誰」
「そりゃまあ、ねえ」
「………」
 樹海は今日も雨。かさをくる、と回してみる。
 水滴が散った。
「つめたっ……なーんて、冗談さ」
「………」
「もう冷たいなんて感じる感覚残ってないからね」
「そう」
 あいつって誰。
「〝先生〟だよねえ。いくら避けても通れない、因果の塊みたい、な、」
 私は膝をつく。
「あなたを因果にできないの」
 死体はびっくりしたかのようにもう動かない瞼を動かした。
「そりゃまた、どうして」
「………」

 ██回目。



 死んでは戻り、死んでは戻りを繰り返している。

「いけないね、お嬢ちゃん。ね……改変したね」
「………」
「〝運命〟じゃないものを運命にしても無駄さ。俺は死んでる。君に何もしない、してやれない」
 私はしゃがみ込んで死体を覗き込む。
「……ねえ」
「何かな」
「止めてはくれないの」
「………」
 珍しく黙り込む死体に、私は、
「言って」
 迫るように言葉を落とす。
「何を」
「私は、私を、止めて。死なないで、って、言って」
「それは命令かい」
「うん」
「わかった。プロトコルを発動する、〝死なないで〟」
 ノイズが走る。因果の収束。



 相変わらずの、樹海。
 雨が降っている。
「………」
「ああ。先に進めたんだね。……おめでとう」
「………」
 私は傘をくるりと回す。
「……どうしてあなたを因果にしたと思う」
「……それ、答えなきゃダメ?」
 動くはずもない首を傾げる、死体。
「言って」
「――が――だから」
「正解」
「陳腐~!」
「いいでしょ、陳腐でも」
「陳腐なラブストーリーが世界を変えることもあるって言葉あるもんねえ!」
「ないけどね」
「辛辣だねえ、お嬢ちゃん。ま……これからも気が向いたら遊びに来ると良い」
「……うん」

 因果の収束。
 私の█は止まった。

〔了〕
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