ポケットモンスターブラック・ホワイト
絶望に歪む顔が見たいと思った。
私の計画を台無しにした小娘。生意気で、反抗ばかり。青い瞳は強い光を湛えていて、バケモノのようだ。
あの時、小娘の瞳に浮かんでいた感情はまぎれもなく憐憫だった。この上ない屈辱。小娘に憐れまれるようなことなど、私には一切ない。しかし――
「あんたのことを、可哀想だと思ったんだ」
あの声が、心のどこかに染み付いて離れない。
憎い。こんな風に感情を揺らすなど、次の計画には全く不要のことだというのに。
「ゲーチス様?」
トリニティが呼んでいる。今日は船の完成予想図を見に行く予定だった。
「今行く」
短く答え、コートを羽織る。
私は「可哀想」などではない。次に止めに来たときこそ、貴様が絶望するときだ。
ゼロ距離で大きく見開かれた青い瞳を思い出す。
平穏など許さない。私が刻んだ記憶を反芻し、憎しみを募らせればよい。そうして、憎しみから私を止めに来たお前を手ずから始末してやろう。
絶望に歪む顔が、楽しみだ。
ドアを開けながら、私はうっそりと笑った。
◆◆◆
「これに懲りたら二度とワタクシにそんな口をきかないことですね、お嬢さん」
あたしは跳ね起きた。
嫌な夢だった。心臓が痛いほど鳴っている。
ゼロ距離であいつを見る体験なんて、何度もしたいものじゃない。夢の中であっても。
そのままじっとしていると、階下のテレビの音が聞こえてきた。
『元プラズマ団のゲーチスの行方は依然としてわかっていません……では、次のニュースです』
わかっちゃいたけど、昨日のことは夢じゃなかったんだなと思う。Nとゲーチスを倒して、ゲーチスが逃げて、あたしは追いかけて、それで……
鼓動が速くなる。旅をしている間中、頭の中にはずっとあの深紅の目があった。忘れようと思っても忘れられない、深い沼のような瞳。吸い込まれてしまいそうな。
可哀想だ、なんて。あたしは何を言ってしまったのだろう。だって、あんな悪人が可哀想だなんてありえない。
あたしはあいつのことが嫌いなのだ。本当に嫌いなのだ。思い出すたび、心がざわりと騒ぐ。嫌いなのだ、そうでも思わなければ……
「トウコ、起きてるんでしょう? ご飯できてるわよ」
あたしははっとした。今、何を考えようとしたのだろう。
「今行く」
ベッドから下りながら、あたしは答えた。
夢の残滓がまだ、心を捉えていた。