ポケットモンスターブラック・ホワイト
選ばれた、と突然言われても、困惑するだけだった。
電気石の洞窟で、Nに言われた言葉。プラズマ団の王様が言うんだから、それは本当なのだろう。
ニュートラルだという理由であたしは「選ばれた」らしい。
勝手な話だ。あたしは自分がニュートラルだなんて思ったことはない。
自分達の都合からなされた一方的な決め付けに、腹が立った。
今日のヒウンシティは晴天だった。
青い空に白い雲がぽっかりと浮いていて、まさに飛雲という感じだ。
最近捕まえたばかりのヒトモシを連れて、あたしはアイスを買いに来ていた。
あたしはいつものハチミツ味、ヒトモシはストロベリー味を選んだ。
歩きながらアイスを食べる。食べるというよりは、なめるに近い。
あたしはアイスをなめるのが大好きだった。単に食べるよりも、なめたときの方が長持ちするからだ。
季節は春に差し掛かり、寒かった冬の間に比べれば、日も射しているし、アイス日和だ。まあ、あたしは冬の間もアイスは食べていたわけだけど。
ヒウンアイスはそんじょそこらのアイスとは比べ物にならないくらい美味い。
豊富な味を取り揃えていることはもちろん、シャーベット状になっているその舌触りがまた格別なのだ。
氷でじゃりじゃりし過ぎず、舌の上にほどよい引っ掛かりを残して溶ける。ジェラートの殿堂だ。
ヒトモシもあたしにつられたのか、アイスをなめなめ歩く。
歩き食べは行儀が悪いと言われようとも、これだけは譲れなかった。
移り変わる景色も込みで、歩きながらアイスを食べるのは楽しいのだ。
そんな調子で、あたしたちはヒウンシティを散歩した。
アイスを食べ終わるころには、「選ばれた」ことで腹が立っていたあたしの気持ちも落ち着いて、安らかな気分になっていた。
「天気もいいし、こういう日が毎日続けばいいのにね」
ヒトモシは首を傾げた。
「晴れの日は嫌い?」
ヒトモシは首を横に振る。
「じゃあ、ひょっとして、曇りの日も好きとか?」
ヒトモシが頷く。
「そっかあ」
ゴーストタイプだからかな、とあたしは勝手な推測をした。
どうして好きなのかとか、正確な理由は聞いてもわからない。言葉がわからないからだ。
こんなとき、Nを少しだけ羨ましく思う。
だけど、言葉が一方的にしか通じないあたしとポケモンは、こうやって推測でやりとりするしかない。それは変えようがないことなので、どうこう言っても始まらないのだ。
そう思うことで、あたしは自分を納得させた。
ふと顔を上げたあたしの目に写ったのは、緑色のごてごてした後ろ姿だった。Nのことを考えているときにそれと出会うとは。あたしはため息をついた。
「ゲーチス!」
呼び止めると、意外や意外、その人物は振り返った。
「奇遇ですね、お嬢さん」
そう言いながら、近付いてくる。
「選ばれたご感想はいかがです?」
「自分が選んどいて、そういうこと訊かないでよ」
「おや、お気に召されないようで」
「当たり前でしょ。勝手に選ばれたなんて言われても、困るもの」
「名誉なことなのですよ。もっと喜んでいただけるかと思いましたが」
「喜ぶわけないでしょ。あたしはなるべくあんたたちみたいな組織とは関わりたくないのよ」
「おやおや」
ゲーチスは肩を竦める。
「まあ、そのうちアナタにもわかることでしょう。選ばれる、という言葉の意味がね……だが、今はまだそのときでない」
では、と言ってゲーチスはボールを投げ上げた。
三つ首の竜がゲーチスを掬い上げ、去る。あたしはいつものようにそれを見送るだけだった。
せっかくアイスを食べたのに、気分がもとに戻ってしまった。それどころか、なんだか不穏な予感がする。
それが外れてくれればいいと願いながら、あたしは空を見上げた。
電気石の洞窟で、Nに言われた言葉。プラズマ団の王様が言うんだから、それは本当なのだろう。
ニュートラルだという理由であたしは「選ばれた」らしい。
勝手な話だ。あたしは自分がニュートラルだなんて思ったことはない。
自分達の都合からなされた一方的な決め付けに、腹が立った。
今日のヒウンシティは晴天だった。
青い空に白い雲がぽっかりと浮いていて、まさに飛雲という感じだ。
最近捕まえたばかりのヒトモシを連れて、あたしはアイスを買いに来ていた。
あたしはいつものハチミツ味、ヒトモシはストロベリー味を選んだ。
歩きながらアイスを食べる。食べるというよりは、なめるに近い。
あたしはアイスをなめるのが大好きだった。単に食べるよりも、なめたときの方が長持ちするからだ。
季節は春に差し掛かり、寒かった冬の間に比べれば、日も射しているし、アイス日和だ。まあ、あたしは冬の間もアイスは食べていたわけだけど。
ヒウンアイスはそんじょそこらのアイスとは比べ物にならないくらい美味い。
豊富な味を取り揃えていることはもちろん、シャーベット状になっているその舌触りがまた格別なのだ。
氷でじゃりじゃりし過ぎず、舌の上にほどよい引っ掛かりを残して溶ける。ジェラートの殿堂だ。
ヒトモシもあたしにつられたのか、アイスをなめなめ歩く。
歩き食べは行儀が悪いと言われようとも、これだけは譲れなかった。
移り変わる景色も込みで、歩きながらアイスを食べるのは楽しいのだ。
そんな調子で、あたしたちはヒウンシティを散歩した。
アイスを食べ終わるころには、「選ばれた」ことで腹が立っていたあたしの気持ちも落ち着いて、安らかな気分になっていた。
「天気もいいし、こういう日が毎日続けばいいのにね」
ヒトモシは首を傾げた。
「晴れの日は嫌い?」
ヒトモシは首を横に振る。
「じゃあ、ひょっとして、曇りの日も好きとか?」
ヒトモシが頷く。
「そっかあ」
ゴーストタイプだからかな、とあたしは勝手な推測をした。
どうして好きなのかとか、正確な理由は聞いてもわからない。言葉がわからないからだ。
こんなとき、Nを少しだけ羨ましく思う。
だけど、言葉が一方的にしか通じないあたしとポケモンは、こうやって推測でやりとりするしかない。それは変えようがないことなので、どうこう言っても始まらないのだ。
そう思うことで、あたしは自分を納得させた。
ふと顔を上げたあたしの目に写ったのは、緑色のごてごてした後ろ姿だった。Nのことを考えているときにそれと出会うとは。あたしはため息をついた。
「ゲーチス!」
呼び止めると、意外や意外、その人物は振り返った。
「奇遇ですね、お嬢さん」
そう言いながら、近付いてくる。
「選ばれたご感想はいかがです?」
「自分が選んどいて、そういうこと訊かないでよ」
「おや、お気に召されないようで」
「当たり前でしょ。勝手に選ばれたなんて言われても、困るもの」
「名誉なことなのですよ。もっと喜んでいただけるかと思いましたが」
「喜ぶわけないでしょ。あたしはなるべくあんたたちみたいな組織とは関わりたくないのよ」
「おやおや」
ゲーチスは肩を竦める。
「まあ、そのうちアナタにもわかることでしょう。選ばれる、という言葉の意味がね……だが、今はまだそのときでない」
では、と言ってゲーチスはボールを投げ上げた。
三つ首の竜がゲーチスを掬い上げ、去る。あたしはいつものようにそれを見送るだけだった。
せっかくアイスを食べたのに、気分がもとに戻ってしまった。それどころか、なんだか不穏な予感がする。
それが外れてくれればいいと願いながら、あたしは空を見上げた。