ポケットモンスターブラック・ホワイト

「あんたはほんとにゲスね」
 憎々しげな目でその少女は言い放った。
「ええ、そうですとも」
 投げつけられた罵倒を顔色一つ変えずに受け流すのはごてごてした服を着た男。森の奥で少女と二人、向かい合って立っている。
「お話はもうおしまいですか? ワタクシは仕事があるものでね、そろそろ解放していただきたいのですよ」
「駄目」
 少女が男のローブを掴む。
「Nのこと、話してくれるまで離さない」
「聞き分けのないお嬢さんだ。ワタクシは充分お教えしたはず。これ以上何をアナタに話すことがあるのです?」
「それは」
 何か言い掛けた少女を遮って、男は言葉を続ける。
「いいですか、お嬢さん。これ以上私の時間を取るのなら、しかるべき理由、根拠を説明してください。あなたにはたくさん時間があるかもしれませんが、ワタクシにはないのですから」
「でも……あなたはNを!」
 少女がローブを引っ張る手に力がこもる。男はため息をついてその手を掴み、少女を引き寄せた。
 至近距離に男の顔を捉え、少女は思わず目を見開く。
「何す……」
 男は薄く笑ってみせ、そして言う。
「ねえ、お嬢さん? 世間知らずのお嬢さん。それは根拠のない憶測にすぎません。ワタクシには子供の妄想を聞いている暇などないのです」
 言い終わると男は少女の体を突き放し、きびすを返した。
「待て……待ちなさい、ゲーチス!」
 振り払われた少女は踏鞴を踏んでゲーチスの背を睨みつける。
 彼はしかし、振り返らない。
「Nは……Nは、あなたの…」
「失礼」
 そう言ってゲーチスはボールから出したサザンドラと共に去った。
 後に残されたのは立ち尽くす少女と、森の静けさ。
 置いて行かれた少女はぎり、と歯を食いしばって空を見上げた。
「ゲーチス……!」
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