Fate/Zero

「……臣師」
 声がする。
「時……師」
 声がする。
「時臣師」
 迷子のような顔をして、私が彼を呼んでいた。



 右も左も見えぬ闇には、慣れていたはずだった。
 見渡す限り、闇だった。私だけがいて、私だけが見えている。
 どうしてか、私は焦っていた。何かを探していた。早く見つけなければ、二度と見つからなくなってしまうと感じていた。
 もとより心の底からの焦りなど味わうべくもなかった。そのはずだった。
 何を探しているのだろうか。
 依然として、何の気配もない。
 いつごろまでだったろうか、道の先を照らしていた赤い鳥がいたはずだ。それが、いない。いない状態で私は走っているのだ。
 自分の判断で? それとも、鳥を探しているのだろうか。わからなかった。
 鳥は飛び去ってしまったのだろうか。この道の先へ。または、私の与り知らない遠くへ。
 ともすれば、死んでしまったのかもしれない。鮮烈な赤は自分の存在を周囲に主張する。見つけてくれと言っているようなものだ。小さな鳥は、捕食者にとって格好の獲物だったろう。
 鳥が、いつまでも私の傍にいるという保障はなかった。私も、鳥にいつまでもいてほしいと願っていたわけではなかった。しかし、真のところはどうだったろうか。私は鳥を、本当はどう思っていたのか?
 好ましい、愛しいと思う心はなかっただろう。そうであれば、私はとっくに鳥を××している。
 ××?
 自分の手に目を落とす。その甲に、赤く輝く令呪。
『聖杯はよほど貴様に興味があるらしい』
 ××しては、いない。今はまだ。
 令呪の形は心なしか、あの鳥に似ているような気がした。


(了)
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