一つ一つ重ねたカミは

『何もなかった、それで済むことじゃねえか』
 思えばそれが最後通告だったのかもしれない。
 私は首を横に振って、
『穴が……空いてるんです。あなたがいなくなった後……決して埋まらない穴が、ずっと、空いていて』
 そうだ、それが本当で、行動を支えるもので、穴が空いているから埋めたくて、埋まらなくて、私は。
 「許されない」。
 それを言い訳にして逃げてきた。
 逃げたって何もならない。その瞬間が延びるだけ。いつか来てしまうそれを直視するときが早くなるか遅くなるかの違いでしかない。わかっていても見るのが怖かった、でももう条件は揃ってしまっていて、逸らせない、否定できない、これ以上は引き延ばせない。
 来るところまで来てしまった。
 逃げられない、逃げてはいけない、逃げはしない。
 選択をする。
 いつからかそうだった。心臓がぐるぐるすること。寝ても覚めてもあの人のことばかり考えてしまうこと。煌めきを忘れられないこと。果たせない約束を抱え続けていること。穴のない青空を嘆くこと。「そんなこと」はあっていいはずがなく、それは病で、異常で、間違ったことで、それでも、世間が許さなくても、
 それでも。
 いつからかどんどん大きくなってしまったそれ、無視できないレベルまで育ってしまったそれを。
 そうだ。
 私はあの人のことが――
 「好き」なのだと。
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