一つ一つ重ねたカミは

「パンチさん」
「何だ」
「朝ですよ」
「朝なんてないだろ」
「それでも朝です」
「あァ、知ってる」
 カチ、と刃が鳴る。
 もうそれを怖いと感じなくなってしまった私は何かが狂ってしまっていて。
「今日はどんな曲がいいですか」
「ノれるやつならなんでもいいぜ」
「それが難しいんですけど……」
「落としたディスク探して来いよ」
「一人でなんて行けません」
「なあ……オリガミ兵から連絡が入った」
「……」
「遺跡に侵入者が現れたってな」
「……はい」
「そういうことだから」
「パンチさんは……」
「……」
「『知ってる』んですか?」
「いいや?」
「本当に?」
「おれッチは何も知らねえ、けど、カンだけはいいからな。自分がいつどうなるか、とか、行き着く先、とか、わかっちまうんだよ。それだけだ」
「じゃあ」
「じゃあも何もねえ、そういうことだ。持ち場に戻れ、DJ」
「……いやです」
 カチ、と音。
「今ここで空けられたいか?」
「それでもいやです」
「聞き分けろよ。何もなかった、それで済むことじゃねえか」
「穴が……空いてるんです」
「……」
「あなたがいなくなった後……決して埋まらない穴が、ずっと、空いていて、」
「……フン」
 鼻で笑うパンチさん。
「おれッチがいなくなったって世界は変わりやしねーよ。何もない。むしろあるべき姿に戻るんだ、喜ぶことじゃねえか」
「……」
「その様子だと言っていいことと悪いことの区別ぐらいはついてるみてえだな」
「ついてますよ、そのぐらい」
「ハ」
 笑うパンチさん。
「何があったって今日で終わりだ、終わりなんだよ。何もかも。最後くらいハデに行こうぜ? 『なかったことにする』ハレの日。なァ、それでいいと思わねえか?」
「……」
「それでも聞けねえって言うんならまあ、したいようにしろって感じ。おれッチは知らねー。でもオマエ、たぶん何かすることあるんだろ? 知らねーけど」
「……」
「おれッチはちょーやさしーから応援してあげるワケ。無理だと思ってても形だけは言ってあげるワケ。……まあ、頑張れ」
「……」
「感謝」
「ありがとう、ございます」
「持ち場に戻れ、DJ」
「……はい」
 ドアの開く音がした。
 その周は、それで終わり。
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