一つ一つ重ねたカミは

「パンチさん!」
「何だよ急に」
「海行きませんか!」
「は?」
 その時は正直、頭湧いてんのか? と思った。
 けど次の瞬間、
「――」
 高音のシンセ、走るリズム。
 ライトアップは水色、青。
「……へえ、こういう趣向ね」
 好みのノリじゃねえけどたまにはこういうのも悪くない。
 フロアの中央に躍り出て跳ね上がって一回転、これ何ていうの? バタフライツイスト? 技名とかよく知らねえ、ノリで踊ってるだけだし。
 それでプレイは盛り上がる。いいね、ノってるじゃんDJ。
 穴、空けたくなるけど空ける相手は残ってねえ。
 そこでDJやってる奴以外には。
 空けたい。けど我慢だ。
 カチ、と空打ち、発散。
 久しぶりによくノった。



「……どうでしたかパンチさん」
「すっ……げーよかった!」
「お、おお……! それは、よかっ」
 バチン!
「ヒェッ」
「ハハハ」
「やめてくださいよぉ……」
 今のは空打ち。このくらいなら避けるってわかってるからな。
「海、行けましたか?」
「いやおれッチ海別に好きじゃねーし」
「えっ」
「おれッチ海から来たから」
「えっ……」
 そうか、そうでしたか、とぶつぶつ呟き出すDJ。
「でもな」
「……」
「それでもよかったぜ」
「そう、ですか」
 よかった、よかった、とDJは繰り返し、
「それは、よかった……」
 はーと息を吐く。それを見て、
 空けてえ。
 カチ、カチ、と刃。
 空けてえ、今、この瞬間、すごくこいつに穴を空けてえ。
 カチ、カチ。
 でも。
「……パンチさん?」
「お前も寝ろよ」
「えっ」
 扉を閉める。
 海の「音」を呼び起こして回転させて、アガって眠れねえかと思ったが眠りは案外すぐにやってきた。
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