一つ一つ重ねたカミは

 縛られてるって気付いたのはいつからだったか。
 ハンドルと本体をまとめてぐるぐる巻かれるような「決まり」に気付いたのは紙ッペラどもを攫って遺跡に着いた瞬間だった。
 おれッチはたぶんここから出られねー。出られねえまま壊れて終わり。
 自分がカンだけはいいのはわかってた、そのせいでわからなくてもいいことまで「わかっちまった」。
 もっと早くに気付いてれば何か変わったのかって何も変わんねーと思うし気付いてたってそのまま、文房具ごときが何かしたって何にもならねー。反抗したって壊される、被造物は主には勝てねえ。
 どうでもいい、何もかもどうでもいい。それなら最高にノれる瞬間を探す方が効率的だ。
 サガったまま消えるよりアガって消えた方が楽しいだろ?
 だからおれッチは楽しんだ、穴空けまくって、楽しみまくって、あいつの選曲はほとんどイマイチだったけどたまにすごくノれるときがあって、でもまだまだそんなもんじゃねーだろってだんだん楽しくなって、なんだかこの日が永遠に続いちまうようなそんな錯覚をしたある日例の男がやってきて気付く。
 終わりの時が来た。
「DJ」
「何ですか」
「忘れるなよ」
「……え?」
「嘘吐いたら穴空け100回な」
「やめてくださいよ……」
「今空けてやろうか?」
「困ります……」
「……なあDJ」
「なんですか」
「おれッチお前のこと結構気に入ってたしスキだったんだよね」
「……え」
「知ってた? お前は特別だって」
「それは……本当なんですか?」
 今扉の外に出ることは「許されていない」。出られない、だからあいつがどんな顔をしているのかもわからねえ。
「……嘘だよ。そんなわけねーだろ」
「……」
「怒った?」
「……怒ってません」
「怒ってるだろ。超ウケる。……なあ、忘れんなよ。忘れたら」
「何を忘れてほしくないのか知りませんけど、そこまで言うなら忘れませんって」
「ほんとか? 約束な」
「……はい」
 未練だったのかもしれねえし、気まぐれだったのかもしれねえ。終わるって実感した瞬間に惜しくなっちまったのかもしれねえ、手元に置いてたそいつが惜しくなって。
 約束はせめてもの反抗。おれッチを滅ぼす理への嫌がらせ。
 どうでもいい、どうでもいいけどせめてそれができたなら、終わっちまってもいいような気はした。
 でもその前に。
「おれッチをサイコーにアガらせてくれよ」
「それも約束ですか?」
「当然だろ。嘘吐いたら」
「穴空け百回、ですよね」
「わかってるじゃん」
「私は最高のDJですよ。合ったディスクさえ手に入ればフロアを最高にわかせます」
「知ってる」
「え」
「お前が最高のDJだってことは知ってる」
「……パンチさん?」
「……」
 おれッチは黙る。意図的な沈黙。
 DJがおれッチを呼んでも答えることはない、もはやそれは許されないし許されたってやってやる気もない。
 ハハ。
 こいつはたぶん忘れねー。それが「わかる」。
 おもしれー。最高に。
 だけどそれはどこか、おれッチ自身への「救い」であるような気もして。
 反吐が出るな。けどいいんだ。
 どうせならサイコーにノらせて終わらせてくれよ、期待してるぜ。
 DJ。
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