一つ一つ重ねたカミは

「今日はお城で舞踏会(ディスコ・ナイト)、ですが私はしがないモブ。着ていく服もかっこいい機材もないし、悲しく家でお留守番ですね」
「ヘーイDJ」
「誰です!?」
「オレは魔法使いムーチョ! お前の願い、叶えてやるぜ! トゥルリラトゥルリラ」
 ぽん!
「あっなんか服がすごいイケイケになった! 古かった機材はピカピカのゲーミング仕様に!」
「カボチャの馬車で行ってこい、ディスコナイト! ただし真夜中に魔法は解けるからそれまでに帰るんだ」
「ありがとうございます、魔法使いムーチョ!」
「いいってことよ」



「ヘーイ! ノってるかー!? スーパーウルトラキャッスルディスコ・ナイト、盛り上がってイキマッショォ!」
「おいオリー、誰だあのイケてるDJは」
「知らん。自分で調べろ」
「冷たいこって」

「よォDJ」
「は……あ、こんばんは! ノってくれてますか?」
「サイコーだぜ、こんなノれる夜も久しぶりだ。なあオマエ……この城の専属DJにならねーか?」
「えっ」
 その時、12時の鐘が鳴る。
「あ……私、帰らないと!」
「もう? 夜はまだこれからだぜ? もうちょいいろよ」
「え、でも……」
「おれッチの言うことが聞けないってか?」
 魔法が解ける。
 そこに残ったのはモブ、一般人の――
「……」
「幻滅しましたか?」
「……」
「私はただの一般人なんです、キラキラしたDJになんかなれっこない。あなたみたいな輝く王子には相応しくないんです」
「DJ」
「……なんですか」
「オマエ、DJだな」
「え?」
「やっぱこの城の専属になれ、ノーとは言わせねえ」
「でも」
「あ?」
 ぎらりと光る瞳は黄金。
「な、なんでも、ありません」
「そういうことだから続けろよディスコ・ナイト」
「パンチさん……」
「あ、おれッチ名前言ったっけ?」
「いえ……そんな気がしただけ」
「偶然だな、おれッチもそんな気がしてたんだ」
「え!?」



 魔法使いは畑で一人。
「帰ってこないな。まあそんなことだろうと思ってた」
 くるくると杖を弄ぶ。
「今度こそシアワセになるといい……『師匠』」
 月は天頂に。
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