一つ一つ重ねたカミは

「な~DJ」
「何、ですか」
「DJって物食べないと死ぬの?」
「えっ」
「おれッチ紙ッぺラの仕組みよくわかんないんだよね~。なんか、あっちの世界にいた■■? っての? 物食わないと死ぬみたいな? よくわかんねーけど」
「え、何、ですか?」
「だから、■■」
「よく聞こえないんです」
「■■、■■、ほんとだ、音壊れてんの? ノイジーじゃん。DJこれサンプリングして曲にしようぜ!」
「えっ……」
「冗談冗談!」
「あ、はい……」
「向こうの世界はもっとリアルだったんだけどな~。この世界って何でも紙ッぺラじゃん? つまんねー。ニセモノ、って感じ」
「偽物、ですか?」
「DJ、オマエもだぞ」
 ぴし、とDJの頬を角でつつく。
「あいたっ」
「オマエも紙ッぺラじゃん」
「そ、そうですが……でも、それ以外にないじゃないですか」
「『ある』んだよ外には。わかってねーな。ほんとの世界は紙ッぺラじゃねーの」
「なんでパンチさんはそれを知ってるんですか」
「なんでってそりゃ………? なんで、だろうな?」
「『ほんとの世界』にいたことがあるんですか?」
「あるに決まって……」
 る、と言いかけて止まる。
 ある、と思っていたそれが砂嵐のように擦れ、ノイジー。思い出せない。
「あーあ」
「……パンチさん?」
「つまんねー、最高につまんねー。DJ、何かいい曲かけろよ」
「えっ」
 結局はつまんねー世界が邪魔をする。おれッチは踊ってればいい、踊らされてればいいってそう思ってんだろ、なあ「世界」。
 それならいいぜ、踊ってやるよ、踊るのは好きだ。
 でもせめて。
「DJ」
「は、はい」
「しっかり見とけよ」
 『証人』を。
 世界に合わない、異邦の者の生きた証を。
 穴を空けてやる。
 本望だろ? ただの紙ッぺラから「トクベツ」。トクベツになれるんだよ。
 そこでようやくおもしれーって思う。人生常にそうじゃなきゃな。
 わかんねーけどまあ頑張れよ。最後まで応援はできねーけど。
 おれッチの責任?
 知らねー、どうでもいい。そんなことより踊ろうぜ。
 穴を空けるのは得意でね。
 お前も嬉しいだろ?
 なあ、DJ。
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