一つ一つ重ねたカミは

 起きる、曲を流す、怒鳴られる、曲を流す、曲を流す、たまに褒められて、曲を流して、機材の手入れをして、寝る。
 起きる、曲を流す、怒鳴られる、曲を流す、怒鳴られる、曲を流す、たまに脅されて、曲を流して、機材の手入れをして、寝る。
 起きる。曲を流す、来るはずだった■■■さんは来ない、曲を流す、たまに笑われて、曲を流して、機材の手入れをして、寝る。
 回る、回る。
 何回繰り返したかはわからない。とにかく繰り返してはいる。
 ■■■さんは来るはずだった。来た記憶もちゃんとある。
 ×××さんはいなくなったはずだった。解放されたんだ、と少し呆然としたあの感覚も、日常の中、何か大きなものを失った気がしてふらふらした気持ちも、覚えている。
 けれど繰り返す中、それらは摩耗して、摩耗して。
 起きる、曲を流す、
「なあ」
「はい」
「いい加減やめれば?」
「何をですか?」
「わかってるだろ?」
 曲を流す、×××さんは何も言わない、こんなことは珍しくて、いつも私を怒鳴ったり脅したり、×××さんは恐ろしくて、×××さんは、×××さんは、
 もういないのに。

 目が覚める。ベッドの上。
 永遠の夜はない。夜はいつか終わる。太陽だっていつか落ちる。永遠はない、永遠はない。
 けれど。
 夢の中でくらいそれを信じさせてくれたってよかった。
 朝はまだ、来ない。
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