翌日。実感がない。
　数日後、一週間後、まだ実感がない。
　一ヶ月後、うっすらと思い出すようになる。
　ディスコの悪魔。黄色の太陽。
　数カ月後、うっすら、だったのが日に日に濃くなっていく。記憶なんて時間とともに薄れゆくものだと思っていたのにどうして？
　あの人の、声。
　煌めき。
　色彩。
　動き。
　そういったものがぐるぐると、永遠に続く嵐のように再生されて終わってくれない。
　おかしい、こんなのはおかしい。私はもう解放されて、自由で、気にすることなんか何もないはずなのに。
『DJ』
『DJェ』
『聞いてんの？』
　おかしい、おかしい、どうしてなんです？ どうしてあなたがいるんです？
　誰にも言えないそれは幻聴。鮮烈に焼き付く黄色が私の精神を乱してゆく。
「大丈夫ですか、師匠」
「……たぶん」
「たぶんって」
「いえ、大丈夫です」
「何かあったら」
「いえ」
「どうして」
「大丈夫ですから」
　途切れ途切れの記憶。最近の記憶が消えている。思い出す側から霧散して、覚えているのはあの日々のことばかり。
　おかしくなっている、確実に。
　原因はわからない。強いて言うなら、太陽が眩しすぎたから？
『DJ』
『DJェ』
　呼んでいる、呼んでいる。
『まだかけてくんねーの？』
　何を？
『曲だよ』
　曲は毎日かけていますが、
『あの曲だよ』
　そう言われると逆にかけたくなくなるのが芸術家というもので。
　けれども次の日私がトリにかけたのは封印していた「あの曲」だった。
　フロアは最高潮に盛り上がった。
「師匠、最高でしたよ今回のプレイ！ 師匠のプレイはいつも天才的だけど、今日のはこれまでで一番……良かったかも」
「それはありがとう」
「師匠？」
　消えている。
　何がって、「黄色」。
　砂漠の砂のように褪せて、薄れて。
『サンキューDJ、サイコーだったぜ！』
　遠く、聞こえたような気がして。
　それから、私が幻聴に悩まされることはなくなった。