一つ一つ重ねたカミは

「ちがーう! こんな曲じゃノれねーよ、ナメてんの? もっと本気で曲選べ」
「す、すみません……」
 ここに来てから、ダメ出しされることが増えた。
 連れてこられた同胞たちは、パンチさんの機嫌が良かったり悪かったりしたときに次々と穴を空けられて。
 機嫌を損ねてはいけない。損ねたが最後、私も穴を空けられる。
 次に選んだ曲はパンチさんの気に入ったようで、ほっと息をつくけれども先ほどの失態は許されないだろう。
 怖い、怖い、穴を空けられる。
 私は必死で謝る。
「パンチさん、ごめんなさい……、さっきの……曲がうまく選べなかったこと、許してください……」
「はァ?」
「あっごめんなさい、許してくれませんよね、すみません、ごめんなさ……」
「まだそんなこと気にしてたの? おれッチ完全に忘れてたんだけど」
「す、すみません」
「そんなことより次のノれる曲かけてくれよDJ~」
「あ……はい……」
 優しい。私はそう思う。
 あのとんでもない失敗を水に流してくれるなんて、パンチさんはなんて優しい人だろう。
 ……?
 思考が一瞬止まる。少しの違和感。
「DJ、聞いてる?」
「は、はい、聞いてます」
「期待してるぜ」
「……はい!」
 パンチさんはやっぱり優しい。
 今の私はとても幸せだ。
 とても。
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