一つ一つ重ねたカミは

 焦燥感があった。じりじりと焦がされるような焦燥感。
 あの人がいなくなった後もそれは続いて、じりじりと。
「師匠っていっつも努力しててすごいっすね! 天才は努力を怠らないってか!」
「はは、ありがとう弟子くん」
 怠らないんじゃない、怠れないんです。ずっと焦がされて、止まることができない。それもなぜかわからない。向上を望む精神が、こんなところで止まってられないなんて焦る熱が、なくならない、なくなってくれない。
 恐れじゃない、恐怖でもない、そうであればどんなによかったか。
 止まったら顔向けできなくなるから。誰に? あの人に。もういなくなってしまったディスコの悪魔に。
 私があの人と同じ場所に行けるかはわからない、でも、何かの間違いで再び顔を合わせることがあったなら。
 DJ、オマエのセンスは最高だぜ、と、言われたくて、望んで、前に進んで。
 止まれないのだ。それが歪な姿でも。壊れても構わない、センスを失うよりはずっとましだから。
 だから走り続けている、今日も明日も、ずっと。
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