そんな時もあったな、なんて

 真っ白になったらどうなるのだろう。
 少し前から、そんな疑問が私を捕らえて離さない。
 キノピオを憎み世界をオリガミにしようとしたオリー……パンチさんの上司、の目的は、キノピオを全員白紙にすることだったらしい。
 そんな噂を聞いてから、白紙になるとはどういうことなのか、白紙になったキノピオの気持ちとは、つまりそれは死なのだろうか、なんて思考がぐるぐる回って離れない。
 世界に太陽が戻り、私の世界からそれが消えてからしばらくたった、オリーの目的なんてものが皆に知られるようになるくらい時が経った、長いようで短いようで、実質そう長くもないから始末が悪い。
 世界の色が褪せたような思いに捉われる。そんなことはあるはずがないのに。世界は救われて、皆が幸せになったはずなのに。
 皆が?
 マリオさんと一緒に旅をしていたオリーの妹さんはいなくなってしまったらしい。
 大切な存在を失ったのは私もマリオさんも同じなのか、マリオさんほどの偉大な人と私を同じにしてしまうのはいけないことだし、第一それが私にとって大切な存在だなんてそんなことありえないのにどうして、どうして世界の色がこれほど褪せて見えるのだろう。
 わからない。わからないです。誰かわかるなら教えてほしい、けれども誰にも言えやしない。
 そうやって。
「師匠、最近色褪せてきてません?」
「そうかな、日に焼けただけじゃないかな?」
「そうっすか? ……今度スパーランド行きません? たまには休息も必要っすよ」
 そう言った弟子くんの姿も、ああ、色褪せていて。
「ハハ……考えとくよ」
 適当に流した私は薄々気付いていたのかもしれない。この先自分がどうなるかって。



「……師匠?」



 その日、出勤してこない師匠が心配になって家まで行ったら師匠がいるはずのベッドには、白紙。
 オレは「察してしまった」。
 勝手に白紙になって、遺書も何も残してくれずに。
 以前、酔い潰れた師匠がこぼした言葉、
『パンチさん、どうして私を置いていってしまったのですか』
 今ならその意味がわかる。パンチさんとやらが師匠の大切な人だったのなら、大切な人に置いていかれるのはこんなにも。
 どうして何も話してくれなかったのか。
 オレは信用されていなかったのか。
 何もかもわからない、師匠だった紙を前にして、ただ途方に暮れるだけ。
 そうしているうちにあっという間に日が落ちて、夜がやってきて、
 師匠は本当の夜になってしまったのだなと。そう思って。
 白紙を片付けた。 


(おわり)
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