まっくらやみはうごかない

 ぺたり。
 と、私は弟子くんの手に触れる。
「つめっ……どうしたんですか!? 師匠、寒いですか!?」
「ううん。私の体はもとからこうだよ」
「なに、を……」
「ほら、マスク外して」
「オレのマスクの下は虚無で……」
 私はその「虚無」に舌をさし入れる。
「体の中も冷たいから」
「師匠……オレの虚無だって冷たいですよ、師匠の冷たさがわからなくなるくらいには」
「同じ温度なら分け合えるね」
「………」
 それじゃ、私は。
 あの冷たい「化け物」と何を分け合ったのだろうか。
「師匠……」
 サングラスの下の目を、弟子くんはよく見通す。
 隠し事なんてできないのかな。
 私とパンチさんが「最高の夜」を共に過ごしたことも。
「わかりませんよ、オレには」
「ん……」
「冷たさが同じでも、分け合うことはできない……そんなオレたちは」
 幸せなんですか。それとも、不幸なんですかね?
 珍しく感傷的なことを言う弟子くんを、私は無言で抱きしめた。



 師匠。
 冷たすぎる「虚無」の温度をオレが調整してたことは、
 墓場まで持っていきます。
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