つきのないよのゆめをみた

 あの夜が終わって、何年経ったかもうわからない。
 海辺。
「どこに行ったんですか、」
 ぽつりと漏れる。
「パンチさん」
「……どーん!」
「うわ!」
「背後からおれッチ登場〜びっくりしたか?」
「びっくりって……その、海に落ちたらどうするつもりだったんですか」
「ん? もっと何かねーの? 生きてたんですか、とか、どうしてここに、とか」
「……その」
「ん?」
「ありがとうございます……」
「なんでお礼? おれッチの存在に無限に感謝って? ハハハ、それならいいぜ」
 ……似たようなことを考えていた私は何も言えなくなって、目を伏せる。
 パンチさんはまるで、文房具《ひと》が変わったみたいに、月の光のようにふわりと笑った。
 それを見て、ああ、███てしまうと思う、許されない。
 それでも。
 それでも、今この夜だけは、その静けさを享受していようと思った。
 
 夜の話。
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