ペーパーマリオオリガミキング
遺跡。
オールナイトの果てのとある夜。
ミラーボールの下、オールナイトは終わったのに黄色い悪魔が鎮座している。
珍しく、夜が終わっても私の傍で。いつもすぐに消えてしまうのに。
悪魔の姿を見ているといつもふらふらと魅入られたようになって、私は変になってしまう。
悪魔なのに。
悪魔だから?
ビビッドイエローはいつも気まぐれかつ残酷で、情なんて一つもなかった。
そのはず、
そのはずだ。
……本当にそれだけだろうか。
わからない。私には何も。キノピオ族は生まれつき頭が弱く、思考に適さず感情の自覚にすら適さない。
愚か、迷妄。その体現のようだった。まるで「そのように作られた」みたいに。
パンチさんですらそうだった、パンチさんは「作られたもの」、あの王に命を与えられた存在であったが、それを考えに入れてもなおあの太陽は輝いていて、刹那の生にしか許されない輝きのよう。
そんな太陽が今、穏やかに傍にいる現実なんかには。
輝きを失わぬまま、何も言わずにそこにいる、なんてことには。
夢のような現実に耐えられなくて、気付くと口を開いていた。
「パンチさん……私、」
言いかけて、何を言おうとしているんだろうなんて気付く。
そんなのわかるわけがない。私はキノピオ族だから。
黄色の姿をおそるおそる見る、きらめきそのもののような鮮やかなイエロー。
黄色い悪魔(かみ)は今は黙って、ただ、私を見ているようだった。
続けても、いいのかもしれない。
機嫌を悪くされるかもしれない、穴まで空けられるかもしれない。
ただ、それでも私は。
わからない、何を言おうとしてるのかなんて。
それでもなんだか言わなきゃいけないような気がした。
だから、口を開く。
「……醒めなければいい、と思うんです」
パンチさんは黙っている。
不機嫌な様子ではない。
私は続ける。
「この生活。まるで、夢みたいで……」
黙っている、私のこれを聞いてくれている、のだろうか。
あの悪魔が?
続ける、続けよう。
私は紡ぐ。
「パンチさん。もしこれが夢なら……一生醒めなければいいって。そう思うんです。そんなこと……私が思っていいはずがないのに」
ハ、と一つ、笑いのような声を零すパンチさん。
「そうですよね。おかしい、ですよね。キノピオ族がこんな、閉じ込められて、ひどい扱いされてるのにこんなこと……」
「……おかしいと思うか?」
かたり、とパンチさんが動く。
「DJ……おれッチが。オマエに。そんなこと思うって?」
「あ、あ……すみません、パンチ、さん……こんな、」
こんな。
「ハ、」
パンチさんはまた、笑う。
影が落ちる。
黒い、大きな、悪魔の影が。
「……ごめ、んなさ……」
ばちん!
「………」
沈黙。どちらともなく訪れた静寂、悪魔の刃は空を切った。
私が避けたわけじゃない。パンチさんが、的を外したのか、
それとも。
「D~Jェ」
パンチさんが降りてくる。
降りて、私をすくい上げる。
「なァ? おれッチ、オマエを結構気に入ってんの。だからさ、オマエにしかこういうことは言わねー」
すくい上げて、刃ではなくハンドルで、微かに私の身体、紙でペラペラの身体に触れる。
「おれッチは刃だ、穴を空ける、輝く刃」
ハンドルが紙をすべる。
「穴空けてーのはおれッチのサガだよ。逃れられねー生まれ持ったサガ」
触れる。
触れて、
「なァDJ。けどよ、刃じゃオマエにすら」
そこでパンチさんは言葉を切る。
沈黙がまたやってきて、パンチさんが私に触れる微かな音だけが遺跡に響く。
よくわからない感覚、こんなものは知らない。
ましてやあの悪魔からこんな感覚が与えられるなんて、考えたことすらなかった。
名前を、呼びたい、呼んだ方がいい気がした。
けれどもパンチさんの沈黙は私にそれを許さない。
散々私にそれを与えて、パンチさんはこう言った。
「……一生醒めなきゃいいな。オマエのその夢」
ぼそりと、誰に聞かせるでもなく呟くパンチさん。
輝き続けているのに、そんな調子で。
だからその後小さく零されたそれまで、私の耳に届いてしまう。
「おれッチの、この夢も」
“ずっと”
……何も言えなかった。何を言う暇もなく、パンチさんは私室に籠ってしまったから。
きっと明日はいつも通りだ。
跡一つ残さず、パンチさんは"それ"をした。
太陽の悪魔の残す傷、あのお方は私にだけ何も残さずいなくなってしまうのかな。
わからなかった、でも、なんだかそんな予感がして。
あれだけ怖がっていた穴でさえも、今は空けてほしくなってしまうような。
そんな気がした。
過ぎた今でもあの感触を夢に見る。
そっと静かに私に触れた、
あの太陽のあった日々。
オールナイトの果てのとある夜。
ミラーボールの下、オールナイトは終わったのに黄色い悪魔が鎮座している。
珍しく、夜が終わっても私の傍で。いつもすぐに消えてしまうのに。
悪魔の姿を見ているといつもふらふらと魅入られたようになって、私は変になってしまう。
悪魔なのに。
悪魔だから?
ビビッドイエローはいつも気まぐれかつ残酷で、情なんて一つもなかった。
そのはず、
そのはずだ。
……本当にそれだけだろうか。
わからない。私には何も。キノピオ族は生まれつき頭が弱く、思考に適さず感情の自覚にすら適さない。
愚か、迷妄。その体現のようだった。まるで「そのように作られた」みたいに。
パンチさんですらそうだった、パンチさんは「作られたもの」、あの王に命を与えられた存在であったが、それを考えに入れてもなおあの太陽は輝いていて、刹那の生にしか許されない輝きのよう。
そんな太陽が今、穏やかに傍にいる現実なんかには。
輝きを失わぬまま、何も言わずにそこにいる、なんてことには。
夢のような現実に耐えられなくて、気付くと口を開いていた。
「パンチさん……私、」
言いかけて、何を言おうとしているんだろうなんて気付く。
そんなのわかるわけがない。私はキノピオ族だから。
黄色の姿をおそるおそる見る、きらめきそのもののような鮮やかなイエロー。
黄色い悪魔(かみ)は今は黙って、ただ、私を見ているようだった。
続けても、いいのかもしれない。
機嫌を悪くされるかもしれない、穴まで空けられるかもしれない。
ただ、それでも私は。
わからない、何を言おうとしてるのかなんて。
それでもなんだか言わなきゃいけないような気がした。
だから、口を開く。
「……醒めなければいい、と思うんです」
パンチさんは黙っている。
不機嫌な様子ではない。
私は続ける。
「この生活。まるで、夢みたいで……」
黙っている、私のこれを聞いてくれている、のだろうか。
あの悪魔が?
続ける、続けよう。
私は紡ぐ。
「パンチさん。もしこれが夢なら……一生醒めなければいいって。そう思うんです。そんなこと……私が思っていいはずがないのに」
ハ、と一つ、笑いのような声を零すパンチさん。
「そうですよね。おかしい、ですよね。キノピオ族がこんな、閉じ込められて、ひどい扱いされてるのにこんなこと……」
「……おかしいと思うか?」
かたり、とパンチさんが動く。
「DJ……おれッチが。オマエに。そんなこと思うって?」
「あ、あ……すみません、パンチ、さん……こんな、」
こんな。
「ハ、」
パンチさんはまた、笑う。
影が落ちる。
黒い、大きな、悪魔の影が。
「……ごめ、んなさ……」
ばちん!
「………」
沈黙。どちらともなく訪れた静寂、悪魔の刃は空を切った。
私が避けたわけじゃない。パンチさんが、的を外したのか、
それとも。
「D~Jェ」
パンチさんが降りてくる。
降りて、私をすくい上げる。
「なァ? おれッチ、オマエを結構気に入ってんの。だからさ、オマエにしかこういうことは言わねー」
すくい上げて、刃ではなくハンドルで、微かに私の身体、紙でペラペラの身体に触れる。
「おれッチは刃だ、穴を空ける、輝く刃」
ハンドルが紙をすべる。
「穴空けてーのはおれッチのサガだよ。逃れられねー生まれ持ったサガ」
触れる。
触れて、
「なァDJ。けどよ、刃じゃオマエにすら」
そこでパンチさんは言葉を切る。
沈黙がまたやってきて、パンチさんが私に触れる微かな音だけが遺跡に響く。
よくわからない感覚、こんなものは知らない。
ましてやあの悪魔からこんな感覚が与えられるなんて、考えたことすらなかった。
名前を、呼びたい、呼んだ方がいい気がした。
けれどもパンチさんの沈黙は私にそれを許さない。
散々私にそれを与えて、パンチさんはこう言った。
「……一生醒めなきゃいいな。オマエのその夢」
ぼそりと、誰に聞かせるでもなく呟くパンチさん。
輝き続けているのに、そんな調子で。
だからその後小さく零されたそれまで、私の耳に届いてしまう。
「おれッチの、この夢も」
“ずっと”
……何も言えなかった。何を言う暇もなく、パンチさんは私室に籠ってしまったから。
きっと明日はいつも通りだ。
跡一つ残さず、パンチさんは"それ"をした。
太陽の悪魔の残す傷、あのお方は私にだけ何も残さずいなくなってしまうのかな。
わからなかった、でも、なんだかそんな予感がして。
あれだけ怖がっていた穴でさえも、今は空けてほしくなってしまうような。
そんな気がした。
過ぎた今でもあの感触を夢に見る。
そっと静かに私に触れた、
あの太陽のあった日々。
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