ペーパーマリオオリガミキング
子供の頃、よく読んでいた絵本があった。
『■■に■をしてはいけないよ。
必ず■■■■■から』
肝心の内容は、全く覚えていないのだけれど。
◆
◆
◆
何が起こったかわからないが、パンチさんが復活した。
何が起きたかわからない。
あの時マリオさんに倒されて、パンチさんは消えた……はずだった。
それから私の世界から太陽は消えて、そう。二度と戻ってこないと。
思って。
あんなに強く輝いていたものが消えるなんて信じられない、と、解放されたことが信じられない、と、このまま風化して消えていくんだろうな、と、
許されない、と。
何が?
さあ。
ともあれ太陽は戻ってきた。
私の頭を乱暴に角でがしがしと回しているパンチさんに、やめてくださいよ、とか言いながら。
「なあDJ!」
「……なんですか」
「また貸し切りダンスフロアやってくれるよな? モチロンオールナイトでだぜ!」
「ええ……」
「な?」
ぐいぐいと威圧してくるパンチさんに、嫌ですとは言えなかったし、それに、内心どこか悪くはない気持ちでいる自分がいて。
「パンチ、駄目だよそんなに迫ったら」
緑色のキノピオ、オリガミ職人さんがパンチさんを窘める。
「あ? コイツはおれッチのものだぜ。何してもいいんだよ」
「こら。そんなこと言ってたら友達いなくなるよ」
「コイツは友達じゃねーし」
「えっ……」
「そうだろ?」
ずずい、とまた迫るパンチさん。
「そ、そうです……ね……」
「友達じゃないなら何なんだい?」
「教えねー」
「おや、教えてくれないのかい」
「ヒミツ!」
「おやおや……」
オリガミ職人さんが笑う。
「パンチも秘密を持つお年頃になったんだねえ」
「そうだぜ!」
えっへん、と擬音がつきそうな勢いで身体をぴんと張るパンチさん。
その姿を、なんだかかわいい、と思ってしまう。
私は何を考えているんだ。友達じゃないって言われたとこなのに。
待てよ、そもそも私はパンチさんを何だと思ってるんだ?
パンチさんは……
太陽?
いやいや。関係性のことを考えているのに太陽はないでしょう。太陽は。
「DJ!」
「な、なんですか……」
「オールナイトしようぜ~! 今夜~!」
「今夜は仕事なので無理ですよ……スケジュール合わせて依頼してくれたら受けますけど」
「おれッチから金取るってか?」
「そ、そりゃ取りますよ……仕事ですから」
「でもおれッチ金持ってない」
「お小遣いとかもらってないんですか?」
あげてないね~、と職人さん。
「必要がないからね。必要なときは私が出してたし……」
「そう! だからおれッチは金ないの!」
ぴし、とまた身体を張るパンチさん。
自慢できることじゃない気がするけど……?
「DJさんに依頼したいなら私が払うよ。いくらかな?」
「XXXXコインです」
「ふむ……それなら払えるよ。パンチ、どうかな?」
「……」
パンチさんは無言で、動かない。
どうしたんだろう。さっきまであんなに機嫌がよかったのに。
そう思って、でも、遺跡にいるときの様子だってくるくる変わる空のようだったし、パンチさんの機嫌がすぐ変わるのは特別なことではないか、と思い直す。
「パンチ、黙ってちゃわからないよ」
「……いらねー」
「……いいのかい? お金を払わないと頼めないんだよ?」
「…………いい」
不機嫌そうなパンチさんはくる、と一回転して、じゃあおれッチ行くわ、とどこかへ去ってしまった。
「……」
「あれは気分屋だからね……気を悪くさせたならごめんね」
「いえ、いいんです……いつものことですから」
「その様子じゃ遺跡でかなりひどい目に遭ったんだね……本当にごめん」
「いいんです……謝らないでください。それに、私は……」
言いかけて、止まる。
私は?
「ん?」
「……」
何を言おうとしたんだろう。
太陽。
関係性の名がわからない。
あのときの自分の気持ちもわからない。
まるで散らかりすぎた部屋みたいに。
◆
パンチが訪ねていくかもしれないけど、勘弁してやってねと言われて帰ってきた私は、悪魔の来訪を覚悟して毎日心の準備をしていた。
けれども何日経ってもパンチさんはやってこなかった。
どうしたんだろう、と考える。
別に来て欲しいわけではないが、来るかもしれないと言われて来ないと気になってしまう。
どうしたんだろう。具合でも悪いのかな。
でも、文房具に具合が悪いなんてない気がするし、どうなんだろう。
「師匠~」
弟子くんが私を呼ぶ。
「どうしたんですか、毎日ボーッとして」
「いや……お客さん来るかなあと思ってね」
「熱心っすね! やっぱソンケーっす」
「いやいや。尊敬されるほどのことでは……」
「オレも見習わないと……」
弟子くんは何やらメモを取り始める。
いったい何をメモしているのだろうか……?
私の発言だったりしたら恥ずかしいな。ないと思うけど。
「……よし!」
弟子くんが顔を上げる。
「……」
ディスクの整理でもするか、と腰を上げようとしたとき、
「そういや、最近あちこちに巨大な穴開けパンチが出没するらしいっすよ」
「パ……!?」
私は耳を疑う。
「謎っすよねえ。あの騒動のときに遺跡に出たっていう奴と同じなんすかねえ?」
「さ、さあ……?」
「師匠も気を付けてくださいよ、穴とか開けられないように」
「その穴開けパンチ……何かに穴空けてるの?」
「さあ? 誰かがやられたーなんて噂は聞かないっすけどねえ……」
「……そっか」
私はほっと胸をなで下ろす。
パンチさんが誰かに迷惑をかけていないんだったらよかった。
でも、ここに来るって話だったのにあちこち飛び回って何をしているのだろうか?
別に来てほしいわけではないのだが。
踊りでも披露しているのかな。
そこまで考えて、
煌めくイエローカラー、残像駆けるステップ。
一瞬で頭があの夜に戻る。
「見たいな……」
「? 師匠も穴開けパンチ興味あるんすか?」
「い、いや……いや。なんでもない」
「……?」
弟子くんが首を傾げる。
誤魔化せてないよな、これは……。
でも強引に誤魔化せたことにしよう。許して、弟子くん。
幸いにもその話はそこで終わってくれて、なんとかやり過ごした。ことにした。
◆
そして、珍しくオフだったある夜。
悪魔はやってきた。
「よう、DJ! いい夜だな!」
「パ、パンチさん……」
「今日空いてるか?」
「空いて、ますね……」
そう。残念ながら、空いているのだ。
「これ」
パンチさんがデスクの上にざらざらとコインを広げる。
その量があまりにも、尋常ではなくて。
「こ、こんなにどうやって集めたんですか」
「えー?」
パンチさんは角を傾ける。
「ヒ・ミ・ツ」
ゆらりと揺れるパンチさん。
そして、
「これ、全部やる」
「ええ!? こんなに受け取れませんよ!」
「うるせー。受け取れ」
「いやいや……」
「依頼すればオールナイトしてくれるって言ったろ?」
「言いましたけど、」
「おれッチは依頼した。だから、おれッチのためにオールナイトしてくれ、DJ」
その声は。
あまりにも真剣で。
けど、それ以上に。
脳裏によぎるあの夜の興奮。
あのとき確かにフロアは「アガって」いた。
ずっと忘れられなかった。
そんな夜を、もう一度見せてくれるのなら。
「……いいですよ」
DJとしてはもう、頷くしかない。
◆
針を乗せる。
リズムを刻む。
イントロが流れる。
「ヘーイノってるかーい!?」
「ノってるぜー!」
「本日の一曲目はこれだ……最初からアゲアゲのナンバーァ! スリリング・ナイト!」
「イェーイ!」
「飛ばして行きマッショォ!」
ズン、と重圧。
パンチさんの纏う雰囲気が、変わる。
きらきらと、空気そのものが輝いているような、そんな錯覚。
華麗なステップ。流れるようなターン。
やっぱり違う。この人は他とは全く違う。
「この夜」しかない。私には、この夜しか。
自然、口角が上がる。
音圧。
その時、私たちは確かに一つになった。
◆
◆
◆
「さあ……窓からは見える朝日! 白み始めても最後までアゲアゲでイキマッショウ! 最後のナンバー!」
パンチさんが刃をカチ、カチ、と鳴らす。
「ディスコ・デビル!」
ラストソング。
DJなんだかダンサーなんだか何もかもがわからなくなって、けれども確かに手は動いていて、目は煌めくイエローの軌跡を追っていて。
ああ。
今。
私は。
死んでもいい。
そう、思った。
曲は終盤。最後のフレーズがその終わりを告げる。
「サンキューDJ! 楽しかったぜ! やっぱオマエ、やればできるな!」
アウトロで宙返りしながらパンチさんが叫ぶ。
「最後までノリノリで行こうぜ! カウントダウン、ヨロシク!」
3。
2。
1。
「会えてよかった。
サヨナラ」
ぱちん。
「……え……?」
◆
あの子の身体はだいぶ無理が来ていたみたいだね、と語る職人さん。
「パンチ、という概念そのものが『太陽』属性と同化して再権限してしまったみたいなんだ。太陽は永遠じゃない、時間が経てば燃え尽きる」
「……」
言葉が頭に入ってこない。
「あの子の身体は熱に強くない……遅かれ早かれ、消滅する運命だった」
どうして。
「それがたまたまあの夜だった、というだけの話だよ。あなたに責任はない」
「……どうして……」
「ショックだろうけど……」
ショック?
私が?
悪魔が消えたのに?
太陽が?
消えたのに?
いや。
だからか。
わからない。
「どうして消えてしまったんでしょうね」
「『太陽』だったから、だね」
せめて私が生きている間だけでも、輝き続けてくれたらよかったものを。
そんなことを考える時点で、私はもうパンチさんのことが■■だったのだろう。
「■■な子と最高の時間を過ごした後で消滅できたんだ、あの子も本望だったと思うよ」
今さら気付くなんて。
なんて、罪深い。
◆
◆
◆
だから、太陽に恋をしてはいけないよ。
必ず燃え尽きるから。
たぶん、そんな話。
だった。
『■■に■をしてはいけないよ。
必ず■■■■■から』
肝心の内容は、全く覚えていないのだけれど。
◆
◆
◆
何が起こったかわからないが、パンチさんが復活した。
何が起きたかわからない。
あの時マリオさんに倒されて、パンチさんは消えた……はずだった。
それから私の世界から太陽は消えて、そう。二度と戻ってこないと。
思って。
あんなに強く輝いていたものが消えるなんて信じられない、と、解放されたことが信じられない、と、このまま風化して消えていくんだろうな、と、
許されない、と。
何が?
さあ。
ともあれ太陽は戻ってきた。
私の頭を乱暴に角でがしがしと回しているパンチさんに、やめてくださいよ、とか言いながら。
「なあDJ!」
「……なんですか」
「また貸し切りダンスフロアやってくれるよな? モチロンオールナイトでだぜ!」
「ええ……」
「な?」
ぐいぐいと威圧してくるパンチさんに、嫌ですとは言えなかったし、それに、内心どこか悪くはない気持ちでいる自分がいて。
「パンチ、駄目だよそんなに迫ったら」
緑色のキノピオ、オリガミ職人さんがパンチさんを窘める。
「あ? コイツはおれッチのものだぜ。何してもいいんだよ」
「こら。そんなこと言ってたら友達いなくなるよ」
「コイツは友達じゃねーし」
「えっ……」
「そうだろ?」
ずずい、とまた迫るパンチさん。
「そ、そうです……ね……」
「友達じゃないなら何なんだい?」
「教えねー」
「おや、教えてくれないのかい」
「ヒミツ!」
「おやおや……」
オリガミ職人さんが笑う。
「パンチも秘密を持つお年頃になったんだねえ」
「そうだぜ!」
えっへん、と擬音がつきそうな勢いで身体をぴんと張るパンチさん。
その姿を、なんだかかわいい、と思ってしまう。
私は何を考えているんだ。友達じゃないって言われたとこなのに。
待てよ、そもそも私はパンチさんを何だと思ってるんだ?
パンチさんは……
太陽?
いやいや。関係性のことを考えているのに太陽はないでしょう。太陽は。
「DJ!」
「な、なんですか……」
「オールナイトしようぜ~! 今夜~!」
「今夜は仕事なので無理ですよ……スケジュール合わせて依頼してくれたら受けますけど」
「おれッチから金取るってか?」
「そ、そりゃ取りますよ……仕事ですから」
「でもおれッチ金持ってない」
「お小遣いとかもらってないんですか?」
あげてないね~、と職人さん。
「必要がないからね。必要なときは私が出してたし……」
「そう! だからおれッチは金ないの!」
ぴし、とまた身体を張るパンチさん。
自慢できることじゃない気がするけど……?
「DJさんに依頼したいなら私が払うよ。いくらかな?」
「XXXXコインです」
「ふむ……それなら払えるよ。パンチ、どうかな?」
「……」
パンチさんは無言で、動かない。
どうしたんだろう。さっきまであんなに機嫌がよかったのに。
そう思って、でも、遺跡にいるときの様子だってくるくる変わる空のようだったし、パンチさんの機嫌がすぐ変わるのは特別なことではないか、と思い直す。
「パンチ、黙ってちゃわからないよ」
「……いらねー」
「……いいのかい? お金を払わないと頼めないんだよ?」
「…………いい」
不機嫌そうなパンチさんはくる、と一回転して、じゃあおれッチ行くわ、とどこかへ去ってしまった。
「……」
「あれは気分屋だからね……気を悪くさせたならごめんね」
「いえ、いいんです……いつものことですから」
「その様子じゃ遺跡でかなりひどい目に遭ったんだね……本当にごめん」
「いいんです……謝らないでください。それに、私は……」
言いかけて、止まる。
私は?
「ん?」
「……」
何を言おうとしたんだろう。
太陽。
関係性の名がわからない。
あのときの自分の気持ちもわからない。
まるで散らかりすぎた部屋みたいに。
◆
パンチが訪ねていくかもしれないけど、勘弁してやってねと言われて帰ってきた私は、悪魔の来訪を覚悟して毎日心の準備をしていた。
けれども何日経ってもパンチさんはやってこなかった。
どうしたんだろう、と考える。
別に来て欲しいわけではないが、来るかもしれないと言われて来ないと気になってしまう。
どうしたんだろう。具合でも悪いのかな。
でも、文房具に具合が悪いなんてない気がするし、どうなんだろう。
「師匠~」
弟子くんが私を呼ぶ。
「どうしたんですか、毎日ボーッとして」
「いや……お客さん来るかなあと思ってね」
「熱心っすね! やっぱソンケーっす」
「いやいや。尊敬されるほどのことでは……」
「オレも見習わないと……」
弟子くんは何やらメモを取り始める。
いったい何をメモしているのだろうか……?
私の発言だったりしたら恥ずかしいな。ないと思うけど。
「……よし!」
弟子くんが顔を上げる。
「……」
ディスクの整理でもするか、と腰を上げようとしたとき、
「そういや、最近あちこちに巨大な穴開けパンチが出没するらしいっすよ」
「パ……!?」
私は耳を疑う。
「謎っすよねえ。あの騒動のときに遺跡に出たっていう奴と同じなんすかねえ?」
「さ、さあ……?」
「師匠も気を付けてくださいよ、穴とか開けられないように」
「その穴開けパンチ……何かに穴空けてるの?」
「さあ? 誰かがやられたーなんて噂は聞かないっすけどねえ……」
「……そっか」
私はほっと胸をなで下ろす。
パンチさんが誰かに迷惑をかけていないんだったらよかった。
でも、ここに来るって話だったのにあちこち飛び回って何をしているのだろうか?
別に来てほしいわけではないのだが。
踊りでも披露しているのかな。
そこまで考えて、
煌めくイエローカラー、残像駆けるステップ。
一瞬で頭があの夜に戻る。
「見たいな……」
「? 師匠も穴開けパンチ興味あるんすか?」
「い、いや……いや。なんでもない」
「……?」
弟子くんが首を傾げる。
誤魔化せてないよな、これは……。
でも強引に誤魔化せたことにしよう。許して、弟子くん。
幸いにもその話はそこで終わってくれて、なんとかやり過ごした。ことにした。
◆
そして、珍しくオフだったある夜。
悪魔はやってきた。
「よう、DJ! いい夜だな!」
「パ、パンチさん……」
「今日空いてるか?」
「空いて、ますね……」
そう。残念ながら、空いているのだ。
「これ」
パンチさんがデスクの上にざらざらとコインを広げる。
その量があまりにも、尋常ではなくて。
「こ、こんなにどうやって集めたんですか」
「えー?」
パンチさんは角を傾ける。
「ヒ・ミ・ツ」
ゆらりと揺れるパンチさん。
そして、
「これ、全部やる」
「ええ!? こんなに受け取れませんよ!」
「うるせー。受け取れ」
「いやいや……」
「依頼すればオールナイトしてくれるって言ったろ?」
「言いましたけど、」
「おれッチは依頼した。だから、おれッチのためにオールナイトしてくれ、DJ」
その声は。
あまりにも真剣で。
けど、それ以上に。
脳裏によぎるあの夜の興奮。
あのとき確かにフロアは「アガって」いた。
ずっと忘れられなかった。
そんな夜を、もう一度見せてくれるのなら。
「……いいですよ」
DJとしてはもう、頷くしかない。
◆
針を乗せる。
リズムを刻む。
イントロが流れる。
「ヘーイノってるかーい!?」
「ノってるぜー!」
「本日の一曲目はこれだ……最初からアゲアゲのナンバーァ! スリリング・ナイト!」
「イェーイ!」
「飛ばして行きマッショォ!」
ズン、と重圧。
パンチさんの纏う雰囲気が、変わる。
きらきらと、空気そのものが輝いているような、そんな錯覚。
華麗なステップ。流れるようなターン。
やっぱり違う。この人は他とは全く違う。
「この夜」しかない。私には、この夜しか。
自然、口角が上がる。
音圧。
その時、私たちは確かに一つになった。
◆
◆
◆
「さあ……窓からは見える朝日! 白み始めても最後までアゲアゲでイキマッショウ! 最後のナンバー!」
パンチさんが刃をカチ、カチ、と鳴らす。
「ディスコ・デビル!」
ラストソング。
DJなんだかダンサーなんだか何もかもがわからなくなって、けれども確かに手は動いていて、目は煌めくイエローの軌跡を追っていて。
ああ。
今。
私は。
死んでもいい。
そう、思った。
曲は終盤。最後のフレーズがその終わりを告げる。
「サンキューDJ! 楽しかったぜ! やっぱオマエ、やればできるな!」
アウトロで宙返りしながらパンチさんが叫ぶ。
「最後までノリノリで行こうぜ! カウントダウン、ヨロシク!」
3。
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「会えてよかった。
サヨナラ」
ぱちん。
「……え……?」
◆
あの子の身体はだいぶ無理が来ていたみたいだね、と語る職人さん。
「パンチ、という概念そのものが『太陽』属性と同化して再権限してしまったみたいなんだ。太陽は永遠じゃない、時間が経てば燃え尽きる」
「……」
言葉が頭に入ってこない。
「あの子の身体は熱に強くない……遅かれ早かれ、消滅する運命だった」
どうして。
「それがたまたまあの夜だった、というだけの話だよ。あなたに責任はない」
「……どうして……」
「ショックだろうけど……」
ショック?
私が?
悪魔が消えたのに?
太陽が?
消えたのに?
いや。
だからか。
わからない。
「どうして消えてしまったんでしょうね」
「『太陽』だったから、だね」
せめて私が生きている間だけでも、輝き続けてくれたらよかったものを。
そんなことを考える時点で、私はもうパンチさんのことが■■だったのだろう。
「■■な子と最高の時間を過ごした後で消滅できたんだ、あの子も本望だったと思うよ」
今さら気付くなんて。
なんて、罪深い。
◆
◆
◆
だから、太陽に恋をしてはいけないよ。
必ず燃え尽きるから。
たぶん、そんな話。
だった。
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