ペーパーマリオオリガミキング
オレの師匠は目が見えない。
生まれつきじゃない、オレと出会うすぐ前に見えなくなったらしい。
なんで見えなくなったのか、そんなことを訊くのは失礼だし、出会った時から目が見えなかったのだから目の見えない師匠というのがオレの中では普通になってしまって、訊いたこともなかった。
そのはずだった。
「師匠」
「……」
「師匠!」
「……ああ。なんですか、弟子くん」
師匠はときどき、その見えない目でどこか遠くを見ている、ような顔をする。
その目に何が映っているのかは知らない。訊いてはいけないような気がした。訊けば何かが壊れてしまうような、知ってはいけないような。
そんな気がして。
そのはずだった。
「弟子くん」
「なんですか、師匠」
「今日も太陽は出ていないのかな」
「今日は太陽出てますよ、こんなに日が照ってるじゃないですか」
「……」
師匠は俯く。
そして、
「ああ。やっぱり、沈んでしまったんですね」
師匠が何を気にしているのか俺は知らない。知らないはず。
「ねえ弟子くん」
「どうしたんですか、師匠」
「太陽はまだ昇らないのかな」
「今は昼ですよ、師匠」
「……」
師匠が見えない目を閉じる。
まただ。
またその顔。
いったい何を見ているというのだろう。
「穴が空いてしまったね」
「……」
知らない。知りたくない。そのはずだった。
訊かない。訊きたくない。そのはず、だった。
なのに。
「師匠」
「……なんですか」
「太陽、って何なんですか」
気付くと訊いていた。
「……ふふ」
そのときの師匠の顔は、どう形容すればいいのかわからない。
何か。
笑っているのに泣いている。
泣いているのに喜んでいるような。
「……」
「戻ってこないんですよ、太陽は、もう」
「師匠……」
「だから聞いても意味がないんです。もう全部終わったんだから」
オレは気付く。
気付いてしまう。
これは諦め。
これは恋。
何かを失くした者の顔。
「あの煌めく太陽を見て、私は目が潰れてしまったんです」
そう。
それがきっと、師匠の。
◆
それから。
「弟子くん、太陽は昇りましたか」
「昇りませんよ。太陽が消えて世界は滅んでしまったんですから」
「……そうですか」
オレは師匠と暮らしている。
「太陽はもう戻らないのかな」
「戻りませんよ。世界はオレたち二人だけです」
「……ふふ」
師匠は笑う。
読めない。
何を考えているのか。
「いつもありがとうございます、弟子くん」
本当は世界は滅んでなどいない。
オレが嘘を吐いているだけ。
本物の太陽と師匠が見ている太陽のズレが耐え難くなって、師匠のあの顔を見るのに耐え難くなって、オレは師匠を監禁した。
窓のない部屋。暗く寒い地下。
世界が滅んだという嘘。
それなのに師匠は笑うのだ。
オレたち二人の世界に太陽はもうないのに。
滅んでしまったのに。
「弟子くん、太陽はもう」
「ないですよ、師匠」
「弟子くん」
オレに組み敷かれながらも師匠は太陽のことを訊く。
喋れないくらいに責め立てているはずなのに。
「……ん」
「な、んですか」
「■■■さん」
◆
◆
◆
やっぱりこうなってしまった。
動かなくなった師匠を見下ろしてオレは思う。
こうならないはずがなかった。それはそうだ。師匠の運命はオレじゃなかった。
やけに冷静な頭がぐるぐると考えている。
運命の相手がオレじゃないなら運命の相手は何だったのか。
暗い地下。オレと師匠二人だけだった世界に太陽はなく、モノになった師匠とオレ一人だけ。
「師匠」
そこでやっと気付く。
オレのこれは。
■。
世界に太陽はもう、ない。
生まれつきじゃない、オレと出会うすぐ前に見えなくなったらしい。
なんで見えなくなったのか、そんなことを訊くのは失礼だし、出会った時から目が見えなかったのだから目の見えない師匠というのがオレの中では普通になってしまって、訊いたこともなかった。
そのはずだった。
「師匠」
「……」
「師匠!」
「……ああ。なんですか、弟子くん」
師匠はときどき、その見えない目でどこか遠くを見ている、ような顔をする。
その目に何が映っているのかは知らない。訊いてはいけないような気がした。訊けば何かが壊れてしまうような、知ってはいけないような。
そんな気がして。
そのはずだった。
「弟子くん」
「なんですか、師匠」
「今日も太陽は出ていないのかな」
「今日は太陽出てますよ、こんなに日が照ってるじゃないですか」
「……」
師匠は俯く。
そして、
「ああ。やっぱり、沈んでしまったんですね」
師匠が何を気にしているのか俺は知らない。知らないはず。
「ねえ弟子くん」
「どうしたんですか、師匠」
「太陽はまだ昇らないのかな」
「今は昼ですよ、師匠」
「……」
師匠が見えない目を閉じる。
まただ。
またその顔。
いったい何を見ているというのだろう。
「穴が空いてしまったね」
「……」
知らない。知りたくない。そのはずだった。
訊かない。訊きたくない。そのはず、だった。
なのに。
「師匠」
「……なんですか」
「太陽、って何なんですか」
気付くと訊いていた。
「……ふふ」
そのときの師匠の顔は、どう形容すればいいのかわからない。
何か。
笑っているのに泣いている。
泣いているのに喜んでいるような。
「……」
「戻ってこないんですよ、太陽は、もう」
「師匠……」
「だから聞いても意味がないんです。もう全部終わったんだから」
オレは気付く。
気付いてしまう。
これは諦め。
これは恋。
何かを失くした者の顔。
「あの煌めく太陽を見て、私は目が潰れてしまったんです」
そう。
それがきっと、師匠の。
◆
それから。
「弟子くん、太陽は昇りましたか」
「昇りませんよ。太陽が消えて世界は滅んでしまったんですから」
「……そうですか」
オレは師匠と暮らしている。
「太陽はもう戻らないのかな」
「戻りませんよ。世界はオレたち二人だけです」
「……ふふ」
師匠は笑う。
読めない。
何を考えているのか。
「いつもありがとうございます、弟子くん」
本当は世界は滅んでなどいない。
オレが嘘を吐いているだけ。
本物の太陽と師匠が見ている太陽のズレが耐え難くなって、師匠のあの顔を見るのに耐え難くなって、オレは師匠を監禁した。
窓のない部屋。暗く寒い地下。
世界が滅んだという嘘。
それなのに師匠は笑うのだ。
オレたち二人の世界に太陽はもうないのに。
滅んでしまったのに。
「弟子くん、太陽はもう」
「ないですよ、師匠」
「弟子くん」
オレに組み敷かれながらも師匠は太陽のことを訊く。
喋れないくらいに責め立てているはずなのに。
「……ん」
「な、んですか」
「■■■さん」
◆
◆
◆
やっぱりこうなってしまった。
動かなくなった師匠を見下ろしてオレは思う。
こうならないはずがなかった。それはそうだ。師匠の運命はオレじゃなかった。
やけに冷静な頭がぐるぐると考えている。
運命の相手がオレじゃないなら運命の相手は何だったのか。
暗い地下。オレと師匠二人だけだった世界に太陽はなく、モノになった師匠とオレ一人だけ。
「師匠」
そこでやっと気付く。
オレのこれは。
■。
世界に太陽はもう、ない。
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