ペーパーマリオオリガミキング
あの人のいるところがどこなのか私には想像もつかない。
天空ではない、それをずっと越えて、あるのかどうかすらわからないどこか遠くの場所。
モノが死んだらどこに行くかなんて誰も知らないし教えてくれなかった。
だから私はそれを探した。
探す、と言っても大したことはしていない。日常の中、仕事の中、いつもの道の路地裏を覗いてみたり、サウンドディスクの裏をまじまじと眺めてみたり、誰もいなくなったホールでじっと佇んでみたり、そういうこと。
そんなことを「探す」とは言わないのかもしれないが、私にとってはそれが「探す」ということだった。
本当は探したくなんかない。あんな悪魔を。だってそんなの許されないし。
だけどそういう認識すらもうまやかしで、私が信じたいことは、信じてしまっていることは、あの人の煌めきがいつまでも私の中に残ってしまっている、それはおそらく「好き」と呼ばれる類いのものだということだった。
「嫌だなあ」
口に出してしまってから後悔する。ここには弟子くんもいるんだった。
「何が嫌なんですか、師匠」
問い返され、どう答えようか。
「いやあ……漠然とね……何か、嫌なんだよね」
「漠然と?」
「いやぼんやりと何か……」
「悩みでもあるんすか?」
「いや、いや、悩みなんて……ないない」
「ふうん……」
マスク越しだから表情は窺えないが、弟子くんは私のことをじっと見詰めている、気がした。
気まずい。この空気をなんとかしようとして、口を開く。
「なんか日常が……息苦しいのかも」
自分でも何を言っているのかわからなかった。
「日常が嫌なんすか? 気晴らしにパーっとでかい依頼でも受けに行きます?」
「ああ、いや、そういうことじゃなくて」
「じゃあ何ですか」
「日常……」
「師匠にとっての日常って何なんですか? 漠然と嫌、なものは日常なんですか? 飽いてる? それなら師匠に必要なのは非日常、なんじゃないかって感じしますけど」
「非日常ね……」
「だからでっかい依頼、超でかいホールで何十人も集めてギラギラのオールナイトとか」
「……………」
私は沈黙する。
だって、それは。
「師匠?」
「うーん」
じゃあ私が嫌な日常って「そういうこと」じゃないか。
それじゃ私はどうすればいい?
「師匠」
「何かな」
「オレは」
◆
目が覚める。まだ夜だ。
会話をする夢を見ていた、弟子くんと。
最後、何を言われたのだっけ?
オレは?
その後が思い出せない。
相変わらず私は探してしまう。
こんな夜中、ベッドをめくったらあの人がいやしないか、窓を開けたらずっと向こうに存在していたりしないか、水を飲もうとして入れたコップの中に浮いていたりはしないか。
ほとんど病気だ。
恋は病、なんて言うけれどそういうことなのか、それとも本当の病なのか。
区別することにあまり意味などはない。ただ傾向が見えるだけ。一定の傾向を切断処理して気持ちを外部化すること、その役に立つだけだ。
それを自分のものとして持っておきたいのなら、病と恋とを区別する必要などない。
なんていうのはもう、どうしようもなくなってしまった側、もしくは余裕がある側の意見なのかもしれないが。
そしてそういうことを考えるのはたぶん今が夜中だからなんだろう。
オールナイトの中、永遠に続く夜、あの人の輝きがなくなってしまった、それでもあの瞬間、「非日常」に最も近い、夜中に。
誰も語り継ぐ者のないその物語のことを私だけが想っているのか。
案外そのことを確認したくて「探す」のかもしれない、なんて。
よくわからないけれど。
(『知ってますよ』──終)
天空ではない、それをずっと越えて、あるのかどうかすらわからないどこか遠くの場所。
モノが死んだらどこに行くかなんて誰も知らないし教えてくれなかった。
だから私はそれを探した。
探す、と言っても大したことはしていない。日常の中、仕事の中、いつもの道の路地裏を覗いてみたり、サウンドディスクの裏をまじまじと眺めてみたり、誰もいなくなったホールでじっと佇んでみたり、そういうこと。
そんなことを「探す」とは言わないのかもしれないが、私にとってはそれが「探す」ということだった。
本当は探したくなんかない。あんな悪魔を。だってそんなの許されないし。
だけどそういう認識すらもうまやかしで、私が信じたいことは、信じてしまっていることは、あの人の煌めきがいつまでも私の中に残ってしまっている、それはおそらく「好き」と呼ばれる類いのものだということだった。
「嫌だなあ」
口に出してしまってから後悔する。ここには弟子くんもいるんだった。
「何が嫌なんですか、師匠」
問い返され、どう答えようか。
「いやあ……漠然とね……何か、嫌なんだよね」
「漠然と?」
「いやぼんやりと何か……」
「悩みでもあるんすか?」
「いや、いや、悩みなんて……ないない」
「ふうん……」
マスク越しだから表情は窺えないが、弟子くんは私のことをじっと見詰めている、気がした。
気まずい。この空気をなんとかしようとして、口を開く。
「なんか日常が……息苦しいのかも」
自分でも何を言っているのかわからなかった。
「日常が嫌なんすか? 気晴らしにパーっとでかい依頼でも受けに行きます?」
「ああ、いや、そういうことじゃなくて」
「じゃあ何ですか」
「日常……」
「師匠にとっての日常って何なんですか? 漠然と嫌、なものは日常なんですか? 飽いてる? それなら師匠に必要なのは非日常、なんじゃないかって感じしますけど」
「非日常ね……」
「だからでっかい依頼、超でかいホールで何十人も集めてギラギラのオールナイトとか」
「……………」
私は沈黙する。
だって、それは。
「師匠?」
「うーん」
じゃあ私が嫌な日常って「そういうこと」じゃないか。
それじゃ私はどうすればいい?
「師匠」
「何かな」
「オレは」
◆
目が覚める。まだ夜だ。
会話をする夢を見ていた、弟子くんと。
最後、何を言われたのだっけ?
オレは?
その後が思い出せない。
相変わらず私は探してしまう。
こんな夜中、ベッドをめくったらあの人がいやしないか、窓を開けたらずっと向こうに存在していたりしないか、水を飲もうとして入れたコップの中に浮いていたりはしないか。
ほとんど病気だ。
恋は病、なんて言うけれどそういうことなのか、それとも本当の病なのか。
区別することにあまり意味などはない。ただ傾向が見えるだけ。一定の傾向を切断処理して気持ちを外部化すること、その役に立つだけだ。
それを自分のものとして持っておきたいのなら、病と恋とを区別する必要などない。
なんていうのはもう、どうしようもなくなってしまった側、もしくは余裕がある側の意見なのかもしれないが。
そしてそういうことを考えるのはたぶん今が夜中だからなんだろう。
オールナイトの中、永遠に続く夜、あの人の輝きがなくなってしまった、それでもあの瞬間、「非日常」に最も近い、夜中に。
誰も語り継ぐ者のないその物語のことを私だけが想っているのか。
案外そのことを確認したくて「探す」のかもしれない、なんて。
よくわからないけれど。
(『知ってますよ』──終)
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