還らぬ永遠

「パンチさん」
 呼びかける。
「パンチさん」
 呼びかける、
「もう夜ですよ」
 返事はない。
「早く起きないとオールナイトできないじゃないですか」
 呼んでも呼んでも返ってはこず、私は部屋を覗く、パンチさんは、
「パンチさん」
 わからない。最近のパンチさんはいったいどうしてしまったのか、フロアにも出てきてくれないし姿も見えないし、どこに隠れているのだろうか。
 お気に入りの曲をかけて出てきてもらえるように準備をしているのに、いくら呼んでも出てきてはくれない。
 どうしてだろう。
 どうしてかな。
 まあパンチさんが出てこないのは前々からそうだったし、今更また出てこなくなったって別に変わりはしない、私の日常はここで続くということだし、よくはある。
 いいのかな。
「パンチさぁん」
 やっぱり返事はない。
「今日の曲は絶対気に入ってもらえると思ったんですけど」
 そこまで言ってもパンチさんはだんまりだ。
 毎日懸命に選曲しているのにな。
「パンチさ……」
「師匠!」
「……君、は?」
「君はって師匠、あなたの弟子じゃないですか……それより師匠、またここにいたんですか。そんな薄着で風邪引きますよ、早く帰りましょう」
 帰る?
「帰るって、私のいる場所はここじゃないですか」
「何言ってんですか……師匠の帰る場所はキノピサンドリアですよ」
「帰れないでしょう?」
「帰れますよ、だってアイツはもういないんだ」
 アイツ?
「師匠を閉じ込めてたアイツですよ」
「『アイツ』が誰かは知りませんが……私はここにいなきゃいけないんです」
「師匠、帰りましょうよ……」
「帰れませんよ」
「師匠……」
 そう言ったムーチョの顔は、マスクの奥の瞳は見えないけれど、痛ましい、という部類の表情をしている気がして。
「……」
 おかしいな、どうしてだろう。
 悲しくないはずなのに涙が出るのは。
「師匠……」
「おかしいね」
「……」
「君は帰るといい、私はまだここにいますから」
「帰れませんよ……」
「帰れないでしょう? 私も帰れないんです」
「わかりました……わかりましたから」
 わかりましたから、とムーチョ。
「でも、なるべく早く帰ってきてください、本当に、お願いします……」
 言い残してムーチョは去った。

 そうして私たちは遺跡に二人ぼっちになる、
 二人ぼっち。

 誰と?

 ■■の気配はそこになく、

「ああ、」

 永遠の――
 暗闇だった。
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