一つ一つ重ねたカミは

「オマエ。DJなんだろ、着いてこい」
 最後の周は、最後とは思えないほどいつも通りだった。
 いつも通り。
 パンチさんの様子が変わっているのもそう、いつも通り。
 ……私たちはいつからこうなっていたのだろう。
 わからないまま繰り返してきた。
 何十回、何百回。
「DJェ」
「……なんですか」
「何考えてんの」
「別に、何も」
「嘘だね」
「……」
「オマエ、考えてるときに目ェ細める癖」
「えっ」
「わかりやすいんだよなー」
「そ、そうだったんですか……」
「なァ」
「はい」
「いつまでやる気?」
「何をですか」
「わかってるんだろ」
「パンチさんこそ、気付いてるんですか」
「おれッチは何も知らねえ、だが」
 言葉を切るパンチさん。
「オマエが何考えてるかぐらいはわかる」
「……」
「どうするつもりだ」
「……今度こそ」
 パンチさんを見据える。
「取り戻してみせる」
「あーあー、その気力はどこから来るのかねー。でも、オマエのそういうとこ」
 カチ、と刃を鳴らすパンチさん。
「嫌いじゃないぜ」
「それだけですか?」
「ん?」
「パンチさんは」
「……」
「私のことが」
「それはオマエが先に言うべきことじゃねーのか」
「……」
「オマエはどうなんだ」
「私は」
 戻らないと決めた。
「……パンチさんが察している通りです」
「ハ」
 笑うパンチさん。
「面白ェな」
「決めましたから」
「ハハ。……なァ」
「はい」
「待ってるぜ」
 そこで会話は終わる。
 そうしてわかる、「条件は揃った」。



 3、

 2、

 1。

 あの人が笑う。



 周回は終わり。
 私は「辿り着いた」。
 出会った頃と寸分違わぬイエローの残光。
 私に穴を空けていったその人。
「……思ったより早かったな」
「ええ。……英雄が埋め残した穴に気付いた後は早かった」
「泣かねえの?」
「泣くにはまだ早いですから」
「ほんと図太くなったねーオマエ」
「誰かさんのおかげです」
「ハ。……で、どうすんだ」
「あなたを連れて行く」
「おれッチが嫌だって言ったら? 怪物は怪物のまま裏側に残るべき、とか」
「ありえませんね。そもそもそういうのが何よりも嫌いなのはあなたの方でしょう」
「違いねえ」
「世界なんて、運命なんてクソくらえですよ。……行きましょう。正しくなくても、間違っていても、私はあなたを――」
「……ハ」
 カチ、と私の手を挟むパンチさん。
 引き上げる、世界の裏側から。
 異邦の神を。
 そして、
「これからどうする?」
「……二人で世界巡りの旅にでも出ようかと」
「ならさ、『本当の世界』見たくねえ?」
「いいですね」
「約束したしな」
「……覚えてくれてたんですか」
「おれッチは基本忘れねーよ」
「……」
「うわ、おもしれー顔」
「見ないでくださいよ……」
「今穴空けたらその顔のまま腹の中に入るのかね?」
「やめてください」
「ジョーダンだって!」
「パンチさんの冗談は本気なのか冗談なのかわからないんですよ」
「ハハ、悪ィ悪ィ」
「全然悪いと思ってないくせに」
「あー、空けてえ」
「やめてください」
「あっそうだじゃあ空ける代わりに――させてくれよ!」
「えっ何ですか? な、」
 超至近距離。唇に触れる、
「!?!?!?」
「ハハハ!」
 そうして始まる。
 裏側から。


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 ――終わり、または始まり。
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