憎悪の海(道エド)

「ほう、チェイテハロウィン。竜の娘でございますか?」
「よく知ってるね~道満。もう説明不要だったりする?」
「お話は聞きとうございます」
「そっかそっか~。嬉しいねえ。……エドモンも聞く?」
 じ、とマスターが巌窟王を見る目に光はない。
「俺は、」
「よいではないですか、マスターの昔語り、一緒に聞きましょうや? どうせ周回はないのです、我らは余暇の徒につき」
「……」
「じゃあ仲良く一緒に聞いてね」
 マスターがにこ、と笑う。
「さて……何年前だったかな、4年ぐらい前かな? エリザベートがハロウィンの度に騒動を起こしたことがあってね……」



「……という感じででチェイテハロウィンは終わったわけ」
「ほう」
 興味深げな道満。
 巌窟王は無言で壁にもたれかかり、目を閉じている。
「チェイテハロウィンがやってたころはエドモンはエースじゃなかったからねえ」
「ダンテス殿にも下積み時代があったのでございますか?」
「下積みというか、何だろう……倉庫番?」
「倉庫番!」
「あの頃のエドモンは何というか……正直言って、とても使いにくかった。そんな強くもなかったし」
「ンンン」
「いや貶してるわけじゃないんだけど、エドモン出すぐらいならバーサーカーで宝具撃った方が強かったし……そもそも敵にルーラーが出てこないんだから、等倍じゃ何もしようがない」
「つまり、スカディ殿がいなかったと」
「まあそういうことだよね。スカディが仲間になってくれて初めてエドモンはカルデアのエースになった……」
「……」
「別にエースになってくれなくてもよかったんだけどね、私は。でも強くなったならやっぱり使うでしょ? 強くなくちゃ勝てない。快適に過ごせない。誰のことが好きとか嫌いとかよりもやっぱり強さが一番だと思うんだよね。あ、もちろん道満は別だよ。私は道満が一番好きだし。でもまあ、道満も普通以上に強いし、そこ含めてもやっぱり強さが一番だと思う」
「マスターは強さが好きなのですな」
「うん」
「強いことはいいことですな、強ければ使い道もある」
「でしょ!」
「しかし、脆弱な者にも使いようはあるのですぞ……ンン。脆弱な者はときに奇抜な動きをしてくれますからな」
「うわあ道満怖い」
「ンンン」
 脆弱な者、それはもうあなたも含めて、という言葉を道満は飲み込む。
 異聞帯にて散々知らしめられたマスターの「普通」の力というもの、しかしそれは今の道満にはどこか、目の前にいるマスターとは「別のもの」であるかのように感じられた。
 その違和感がどこから来るものか、道満は知らない。



 マスターが去った後。
「召喚されたはいいが一度も同行を許されず、前線に呼ばれることもない……チェイテで貴方は何を考えていたのでしょうな?」
「……」
「この道満、聞きとうございます」
「貴様の興味は録でもない」
「おやおや、はて」
「そもそもなぜ、話す必要がある」
「拙僧が聞きたいから、ではいけませんか?」
「俺がマスターに使われることについて何か考えるとでも?」
「マスターはそうでなくとも、ダンテス殿の方はマスターに大層執着しておられる様子……もしそうであれば、貴方は忸怩たる想いを抱えていたのでは? 運命的な別れをして、ようやく呼ばれて、二人で戦えると思っていた、その想いが無惨にも打ち砕かれたとしたら?」
「………」
「違いましょうや? ダンテス殿、違うというなら真実を聞きとうございますぞ」
「……黙れ、獣」
「おやおや、ご気分を害されたご様子! この道満、謝罪いたしますぞ!」
「貴様の謝罪などいらぬ」
「ンンン! おやおや!」
「……」
 巌窟王は無言で空中に溶けようとする。
「おやおや、逃げられるので? ンンン! ダンテス殿も案外繊細でおられますなあ!」
「……!」
 金色の目がぎ、と道満を睨む。
「ンンン!」
 道満が愉快そうに笑う。
「恐ろしきかなエドモン・ダンテス。貴方は永遠に報われることはない」
 言い終わる頃、巌窟王はもうその場にはいなかった。
 後にはただ、上機嫌の道満一人。
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