憎悪の海(道エド)

「マスター!」
「あっバニヤンちゃん」
「みんなでパンケーキを作ったの。マスターにも食べてもらいたくて」
「いいよ~行く~!」
「あの……」
 バニヤンはマスターの傍らに立っていた巌窟王におずおずと声をかける。
「巌窟王は食べなくても大丈夫でしょ。甘いものとか好きじゃなさそうだし」
「ム……そうだなマスター。俺は先に部屋に戻っている」
「自分の部屋にね。マイルームには来なくていいよ」
「……ああ」
 そう言い残すと、巌窟王は霊体化した。
「行こ、バニヤンちゃん」
 楽しそうにバニヤンに向き直るマスター。
 でも、とバニヤン。
「いいんだよ。巌窟王はそういう奴なの。気にされるのも嫌いみたいだし。一匹狼なんだよ、群れないの」
「でも、パンケーキはみんなで食べた方がおいしいよ……?」
 ふふ、とマスターが笑む。
「バニヤンちゃんは優しいね。でも、いいんだよ」
 そう言って廊下の先を見やった目が一瞬鋭くなる。
「あんな奴」
「マスター?」
「……行こっか」
「……うん」
 マスターに手を引かれて食堂に向かうバニヤンがちらちら後ろを振り返る。
 黒の炎が姿を見せることは、なかった。
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