憎悪の海(道エド)

『エドモンは一人でいたいんだよね。そうでしょ?』

『やったね、友達ができたね! これから仲良くね!』



「………」
 カルデア。
 巌窟王は眉間に皺を寄せて壁に背を預けていた。
 そこに現れる美丈夫一人。
「どうなされましたァ? エドモン・ダンテス?」
「俺はエドモンではない、巌窟王だ」
 巌窟王は一瞥もせず、呼び名の訂正だけを行う。
「浮かない顔をされておりますね? もしやまだマスターのお気に入りになれないことを気にしておられる? 拙僧と違って!」
「黙れ」
「ンンン!」
「いや~今日も仲良しだねえ!」
 にこにこしながら現れるマスター。
「これはこれは藤丸立香」
「マスター。何をしている」
「んー? エドモンを周回に連れだそうと思って」
「拙僧はまた後衛です? 星見所のエース、エドモン・ダンテスの活躍を応援できるとは光栄なりや」
「……」
「うん、今日も後衛で頑張ってもらうよ~! カルデアのエース、最高の表現だね! これまでエドモンがいないとすごく困ったからね! エドモンあっての周回、いつも敵を殲滅してくれて嬉しいよ」
「ンンン、マスターそのようなことは思ったこともないでしょうに」
「今は思ってるよ! エドモンが道満のための素材を集めてくれたから今の道満があるんだし」
「感謝しておりますぞ?」
「感謝は大事だね! さすが道満!」
「ンンン」
「………」
 巌窟王は表情を少しも変えずにそれを見ている。
「今回のサマーアドベンチャーも巌窟王がいないと周回できてないもんね、あとスカディ。エドモン、キミとはこれまで長く戦ってきたけど初めて感謝したよ。ありがとう」
「ンンン、報われぬ男! 拙僧と違って!」
「黙れ道満」
「もう名前で呼ぶくらい仲良しになったんだね! よかった! うちのエースと将来のエースが仲悪いとやっぱ困るからね」
「将来のエース、だと?」
 巌窟王が顔を上げる。
「あれ、言ってなかった? 道満は将来のエースだよ。Q宝具でしょ、多段ヒットでしょ、NP回復持ちでしょ、宝具5でしょ。完璧じゃないか」
「だが俺も同条件だ、マスター」
「バフの量が違うじゃん? でも大丈夫、エドモンは引退じゃないよ。道満は三騎士には弱いからね、三騎士相手のときはエドモンに出てもらう。バリバリ働いてもらうから」
「ンンン! 過重労働ですな!」
「問題ないよ、道満はスキルマじゃないから出番はしばらく少ないからね。安心してエドモンを応援するといい」
「お言葉に甘えまして! 奮戦せよ、エドモン・ダンテス!」
「………」
「仲良しだねえ!」
「…………」



「私正直道満がなんでカルデアに来たのかよくわからないんだよね」
「陰陽師には秘密が多いと申しましょう」
「リンボマンだったじゃん? この先の異聞体で何かあるのかな?」
「マスター。あなたは今どこにおられる?」
「え、シンだけど」
「ンンン! それならネタバレ禁止ですなあ!」
「そっかー残念」
「………」
 海底遺跡跡地を歩きながら会話するマスターと道満、から少し離れたところを歩く巌窟王とスカディ。
「狩り残しはないかな?」
「狩り続けたいから来ておるというのに変わった物言いじゃの、マスター?」
 スカサハ・スカディが緩く笑う。
「へへ……そうだけど」
「狩らなければ宝は手に入りませんものなァ」
「それだね」
「ふふ」
 スカディは口元を隠して笑う。
「………」
 対して、巌窟王は無言を貫く。
「ほれ、そこにいるぞ」
 スカディが物陰に向かって氷を飛ばす。
 きゅう、と崩れるシャーク。
「海故に鮫がいる、というわけでもなさそうなのが面白いところじゃの」
「きっと色々と理由があるんだろうね」
「然り、然り」
「………」
「スカディ、感知のルーンっぽいやつでパーっと敵さん見つけてくれたりしない?」
「そのようなことをしてもいいのか?」
「いいよ」
「では、やろう」
 スカディが杖を振り、空中にルーンを描く。
 海底が振動し、モンスターがわらわらと出現する。
「大量だね! じゃあスカディ、エドモン、いつもみたいにやっちゃって」
「拙僧は応援しております故!」
「承知した」
「………ああ」



 スカディの支援により巌窟王が連続宝具を撃ち、戦闘は終わった。
「ありがとうエドモン、スカディ」
「当然のことよな」
「…………」
 巌窟王はするりとマスターの影の中に抜ける。
「あれっエドモン逃げちゃった」
「やはりマスターの影の中が一番落ち着くのでしょうな! では拙僧も失礼して」
 ぞぞぞと影に入る道満。
「やっぱり仲良しなんだねえ」
「愛そうか」
「愛そうかだね」



 マスターの影の中、漆黒の空間。

「拙僧が来たおかげで待遇が改善したというのに何がご不満なのでしょうなあ? エドモン・ダンテス」
「黙れ、獣」
「それとも以前までのように剣呑な態度を取られたかったと? 壁を這う虫以下、虚無の空間に向ける目を向けられたかった? 受難のサーヴァントとしてでしょうかァ?」
「…………」
「なぜ知っているか? なぜでしょうなあ? 不思議ですなあ?」
「喋る獣と会話する趣味はない。立香の影から出て行け、獣。毒が回る」
「ンンン、言いますなあ! やはり拙僧らは『仲良く』できるのでは!?」
「…………!」
 ぶわりと周囲に黒炎を展開する巌窟王。
「おやおやおや良いのですか? ここはマスターの影の中! そんなところで我々が衝突などしてしまっては……」
「…………」
 巌窟王は炎を収める。
「そうそう、そうでなくては。我々は仲良しなのですから……ね? 仲良くしましょうや? 星見所の一番星……エドモン・ダンテス殿」
『エドモン、道満~キャンプ着いたよ~おやつ食べようよ~』
「……! 出ろ、道満」
「お八つとは至極なり!」
 するりと影から抜け出す道満。
 それを見届けると、巌窟王も漆黒から抜けた。
『おやつだおやつだー!』
『ンンン!』
『………』

 後には何も無い、黒。
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