Fate/Grand Order
一目惚れだった。
黒いマント、髑髏の面。長身を猫背に曲げて、私に挨拶をした。
「サーヴァント、アサシン。影より貴殿の呼び声を聞き届けた」
「アサシン……呪腕の、ハサンさん」
タブレットに写る霊基情報から名前を抽出して、口に出す。
「いかにも」
低い声で、肯定。
召喚の余波で部屋に満ちている風に、彼のマントがたなびいている。ひらり、ひらりと舞うそれに目を奪われそうになるのを抑えて、私は口を開いた。
「よろしく……お願いします……」
緊張していて、そう言うのがやっとだ。
「こちらこそ、魔術師殿」
「魔術師……魔術師。私が?」
「違いますかな? 私を呼んだということは、あなたは魔術師であるのでは」
「そっか……私、魔術師なんだ。しっかりしなきゃね……」
思わずこぼしてしまったそれに、しまったと思う。こんなことを言ったら、頼りないマスターだと思われてしまうかもしれない。実際、こんなかけだしの新米、戦い慣れもしていないマスターなんて頼りないことに変わりはないのだけれど。
「魔術師殿」
「はい」
「貴殿が今回の私のマスターでよろしいか」
「あ……うん。そうだよ……そう」
そういえば、確認していなかった。こうして呼び出した以上、そういうことはきちんと確認しておいた方がよかったのに。
「ごめんね」
「何がかな?」
「いや、その。確認してなかったから……私があなたのマスター、カルデアの藤丸立香。今回の召喚目的は人理修復に付き合ってもらうことだよ」
「承知している」
「あれ、そうなんだ」
「簡単な情報は与えられておりますからな」
「そっか……そうだったね。説明が早くてよかった」
「ええ」
小さく頷く彼……呪腕のハサン。その顔に貼り付いたつやのない髑髏の面は白く、全体的に黒い彼の格好のアクセントとなっている。
漆黒のマントは夜の闇のようで、空調の効いた室内の温度がそこだけ下がっているような気さえする。この人はきっと仕事人なのだろう。命令されれば、大切な人でさえきっと始末できるような。
小説に出てくる暗殺者ってきっとこんな格好をしているんじゃないだろうか。
思わずため息が漏れた。
「あ、ごめん。ため息なんかついて」
「……」
呪腕のハサンは黙っている。
「なんでため息ついたか、説明した方がいい?」
「よろしければ」
「その、」
「ええ」
「かっこいいと思って」
「は」
彼は息を呑んだ。表情は当然わからないが、びっくりしている、ようにも見える。
引かれたか?
「ごめんね、驚くよね……」
「いえ……」
「あんまり気にしないでくれると助かるかな。私があなたのことをかっこいいと思おうが思わまいが、人理修復に付き合ってもらわなきゃいけないことに変わりはないから……そう、状況は切迫してて……あの、でも、ごめんね……」
「いえ。ありがとうございます」
礼を言われた。
「マスターからそのように思われること、光栄にございます」
「そんな……」
「正直、怖がられているのかと思っておりましたからな」
「そうなの!? いや怖いところもあるけどかっこいいのが一番で……綺麗だし……お面とか……マントとか……声も……」
「はっはっは。褒めますなあ」
「あ……」
思わず好きなところを並べてしまった。恥ずかしくなって俯くと、
「では、改めてよろしくお願いしますぞ、魔術師殿」
目の前に手が差し出される。金のリングがはまった指はすっと長い。思わず見惚れそうになってふるふると首を振り、慌てて手を前に出す。
「よろしくね……」
指が触れる。ぎゅ、と握られた手が熱くなる。
これからどう接していけばいいのか、こんな調子で旅はうまくいくのか、不安なことはたくさんあるけれど、最初の冷たそうな印象と違ってこの人は随分気さくそうな人だから、なんとかなるんじゃないかと思った。
でも。この一目惚れはなんとかならない気しかしない。ばくばくとうるさい鼓動が相手に伝わらないよう祈りながら、私は息を吐いた。
(了)
黒いマント、髑髏の面。長身を猫背に曲げて、私に挨拶をした。
「サーヴァント、アサシン。影より貴殿の呼び声を聞き届けた」
「アサシン……呪腕の、ハサンさん」
タブレットに写る霊基情報から名前を抽出して、口に出す。
「いかにも」
低い声で、肯定。
召喚の余波で部屋に満ちている風に、彼のマントがたなびいている。ひらり、ひらりと舞うそれに目を奪われそうになるのを抑えて、私は口を開いた。
「よろしく……お願いします……」
緊張していて、そう言うのがやっとだ。
「こちらこそ、魔術師殿」
「魔術師……魔術師。私が?」
「違いますかな? 私を呼んだということは、あなたは魔術師であるのでは」
「そっか……私、魔術師なんだ。しっかりしなきゃね……」
思わずこぼしてしまったそれに、しまったと思う。こんなことを言ったら、頼りないマスターだと思われてしまうかもしれない。実際、こんなかけだしの新米、戦い慣れもしていないマスターなんて頼りないことに変わりはないのだけれど。
「魔術師殿」
「はい」
「貴殿が今回の私のマスターでよろしいか」
「あ……うん。そうだよ……そう」
そういえば、確認していなかった。こうして呼び出した以上、そういうことはきちんと確認しておいた方がよかったのに。
「ごめんね」
「何がかな?」
「いや、その。確認してなかったから……私があなたのマスター、カルデアの藤丸立香。今回の召喚目的は人理修復に付き合ってもらうことだよ」
「承知している」
「あれ、そうなんだ」
「簡単な情報は与えられておりますからな」
「そっか……そうだったね。説明が早くてよかった」
「ええ」
小さく頷く彼……呪腕のハサン。その顔に貼り付いたつやのない髑髏の面は白く、全体的に黒い彼の格好のアクセントとなっている。
漆黒のマントは夜の闇のようで、空調の効いた室内の温度がそこだけ下がっているような気さえする。この人はきっと仕事人なのだろう。命令されれば、大切な人でさえきっと始末できるような。
小説に出てくる暗殺者ってきっとこんな格好をしているんじゃないだろうか。
思わずため息が漏れた。
「あ、ごめん。ため息なんかついて」
「……」
呪腕のハサンは黙っている。
「なんでため息ついたか、説明した方がいい?」
「よろしければ」
「その、」
「ええ」
「かっこいいと思って」
「は」
彼は息を呑んだ。表情は当然わからないが、びっくりしている、ようにも見える。
引かれたか?
「ごめんね、驚くよね……」
「いえ……」
「あんまり気にしないでくれると助かるかな。私があなたのことをかっこいいと思おうが思わまいが、人理修復に付き合ってもらわなきゃいけないことに変わりはないから……そう、状況は切迫してて……あの、でも、ごめんね……」
「いえ。ありがとうございます」
礼を言われた。
「マスターからそのように思われること、光栄にございます」
「そんな……」
「正直、怖がられているのかと思っておりましたからな」
「そうなの!? いや怖いところもあるけどかっこいいのが一番で……綺麗だし……お面とか……マントとか……声も……」
「はっはっは。褒めますなあ」
「あ……」
思わず好きなところを並べてしまった。恥ずかしくなって俯くと、
「では、改めてよろしくお願いしますぞ、魔術師殿」
目の前に手が差し出される。金のリングがはまった指はすっと長い。思わず見惚れそうになってふるふると首を振り、慌てて手を前に出す。
「よろしくね……」
指が触れる。ぎゅ、と握られた手が熱くなる。
これからどう接していけばいいのか、こんな調子で旅はうまくいくのか、不安なことはたくさんあるけれど、最初の冷たそうな印象と違ってこの人は随分気さくそうな人だから、なんとかなるんじゃないかと思った。
でも。この一目惚れはなんとかならない気しかしない。ばくばくとうるさい鼓動が相手に伝わらないよう祈りながら、私は息を吐いた。
(了)
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