Fate/Grand Order

「マスター」
「何」
 共用のソファで次の戦闘のパーティを考えていたとき、セイバージルが声をかけてきた。
「マスターはなぜ私を聖処女と組ませてくださらないのですか?」
 そういえばジルからジャンヌと一緒に組ませてほしいという希望を聞くことがたまにあった気がする。今回もそれだろうか。
「ジャンヌのコストは重いから、ここぞというときにしか出せないんだよ」
「しかし、マスターは成長し同時運用できるサーヴァントも多くなったではないですか」
「そうだね」
 私は肯定する。
「ではなぜ」
「元帥と彼女並べたらスター散っちゃうし」
「それが何だというのですか。私とジャンヌが協力すれば、解放のための戦いが再現されるというのに」
「元帥、うちにフレーバーを重視する余裕はないんだ。どの戦いもギリギリだし」
 ジルがジャンヌと組ませて欲しがっていること。それはフレーバー的な理由だけではなく、ジルとジャンヌ、お互いのシナジー込みの話だということを、本当は私もわかっていた。
 しかし、私の中の何かがジルとジャンヌを組ませることを避けたがっていた。
 その感情の正体に、そのときの私は蓋をした。
「わかってほしい、ジル。不確実な戦法に頼って戦闘を長引かせたくないんだ」
「……いいでしょう。総司令官が望まないことを無理に言っても仕方がない」
「ありがとう」
 その言葉を聞いたジルは無言で数秒私を見た。
「何?」
「いつか。そうやってサーヴァントの希望を無視していてはいつか、しっぺ返しをくらいますよ」
 そう言って、ジルは去って行った。

◆◆◆

「元帥!」
 手負いのキメラの首を落とす一撃をジルに任せようと、指示を出す。
「……」
 だが、先ほどまで戦ってくれていたジルの手はなぜか止まり、ただ黙ってこちらを見ていた。
「先輩ッ!」
 マシュが叫ぶ。
 何が起こったのかわからなかった。
 手負いのキメラが放った光弾が私の身体に風穴を開けたのだと気付いたのは、遠のく意識の中でだった。
 私は間違っていたのだろうか。自分の感情にすら向き合わず、本当の理由も言えず、思いを捻じ曲げた結果……これが「しっぺ返し」だろうか。
 最後に視界に入ってきたのはジルの黒い瞳。
 無。
 それはまさしく無だった。怒りもない、喜びもない、戸惑いもない、自責もない、葛藤もない、執着もない。
 いつからこんな目をするようになったんだろう。そういえば、最後にジルの目を見て話したのはいつだったっけ。
『私が壊れた暁には』
 遠い昔のようだった。
 そして、すっかり何もわからなくなった。


(了)
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