Fate/Grand Order

「問おう。貴様が私のマスターか」
 視界を焼く閃光と共に出現したのは、現在絶賛敵対中の相手だった。とりあえず、目を合わせないように首元辺りを見る。
「なんでお前がここにいるんだ」
「貴様が私のマスターか、と聞いている。答えなければ八つ裂きにしてやってもいいのだぞ」
 召還陣から一歩踏み出し、魔術王が手を伸ばす。私はそれを後ずさりして避ける。
「カルデアの召還陣を利用してカルデアに乗り込もうって手か?」
 一人で召還部屋に入ったのが間違いだった。しかし、ここで会話を引き伸ばせれば、いつもより長い時間部屋にいることに心配したマシュが様子を見に来てくれるかもしれない。ここはなんとか話題を繋ごう。
「聖杯が揃うのを待てなくなったのか? 魔術王さんは待てもできない犬でしたか」
「はは! 犬か! 愉快な表現だ!」
 魔術王は心底おかしそうに笑う。
「だが違う」
「何が違うっていうんだ」
「憐れでちっぽけなマスターに力を貸しに来たのだ」
 何か信じられない言葉を聞いた気がする。
「よく聞こえなかった。もう一回言って」
 とりあえず、聞き返す。今のは十中八九聞き間違いだろう。
「三度は言わぬぞ。無力なサーヴァントどもしか従えぬ貴様を助けてやろうと思ってな」
「何かの冗談?」
「人を疑わなければ生きていけぬ馬鹿か、貴様は」
「え…人理焼却は?」
「ふん。そのような些末ごとに拘う暇などない」
「は?」
 私は目を瞬かせた。自分の野望を些末ごとって言った、こいつ? どうも話が噛み合わない。
「私は座から召還されたソロモンだ。英霊であり生者でもあるソロモンとは違う」
「じゃあなんで…」
「なに。座のソロモンは『ソロモン』にちっぽけな小娘の身で反抗している貴様に興味があった。地球最後のマスターに本当に私に敵対しうる器があるのかどうか見定めに来たのだ。故に」
 言葉を切って私を見詰めて――目を合わせていないのでわからないが――いるらしい魔術王。
「気に入らなければ殺す」
「なんだ」
 そういうことはもう言われ慣れているので拍子抜けしてしまった。魔術王も自サーヴァント化してしまえばただのサーヴァントということか。
「今ここで手ずから殺してやってもいいのだぞ?」
「やれるもんならやってみろ」
「マスター? 何をやっているんだい」
 能天気な声が不穏な空気を破る。
「聞き覚えのある声が聞こえてくると思ったら、ソロモンじゃないか。元気にやってたかい?」
 やあ、と片手を挙げるダビデ。
「でも君は今は僕の敵だったね。では尋常に…」
「ちょ…待ってダビデ!」
 友好的な態度から何の躊躇いもなく五つの石を放とうとするダビデを必死で止める。この魔術王は敵ではないということをなんとか説明した。
「ふうん。座から来たってわけか。それなら納得できる」
魔術王は苦虫を噛み潰したような顔で黙っている。
「かわいいマスターが苦労しているのを見ていられなくなったのかい?」
「黙れ」
「まったく、素直に気に入ったって言えばいいのに。昔からそういうとこ照れ屋さんだよねえ、ソロモンは」
「黙れ!」
 子供のように反論する魔術王を見て、少しかわいいと思ってしまったのは黙っておこう。
「まあ、かわいい息子との対面もできたことだし? あとは若いお二人さんで~」
そう言って、鼻歌を歌いながらダビデは行ってしまった。
「ええと、魔術王さん?」
「ソロモンだ」
「名を呼ぶと呪いが…」
「貴様に呪いなどかけても面白くない。奴のことを呼ぶ時以外は私が守ってやろう」
「そりゃどうも。じゃあこれからよろしく、ソロモン」
 ご本人と行く! 人理修復の旅! が今ここに始まったのであった。

◆◆◆

「貴様! 私の分際でなぜこいつに味方する!」
「ハ! 当然、興味からだ、私よ!」
 魔術柱に少し姿の違う魔術柱が対峙する。敵の魔術王は憎々しげに顔を歪ませてソロモンを睨む。
「貴様も私なら私の目的は理解できよう。だというに、何故くだらない人間どもに与するのだ!」
「人間に与しているわけではない! こいつの側についた、それだけのことだ! そら、手元がお留守だぞ!」
 ソロモンの触手が魔術王の頬を掠める。
「チッ……格落ちの分際で私に歯向かうか!」
「格落ちと侮っている間は貴様の勝利はない! マスター、ぼけっとしてないでサーヴァントどもに指示を出せ! この魔術王が貴様についている間、貴様に負けはないと示してやろう!」

◆◆◆

「……!」
 敵の飛ばした光弾が胸に直撃する。スローモーションで視界が後ろに飛んでいく。
「マスター!」
 慣性に従っていた身体が何か長くてぬめっとしたものに絡め取られて止まった。
 敵にこんな形状のものはいなかったはずだが、これは……? 確かめようとするも、激痛で身体を起こせない。
「何をしている、馬鹿が!」
 どことなく焦ったソロモンの声。ということは、これはソロモンの触手か。
「ソロモン、私は大丈夫だから敵を」
「言われるまでもない! …俺の所有物を傷つけた報い、死ぬだけでは済まぬと知れ…!」

 この後呪いとか丁寧にかけます
2/12ページ
    スキ