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【シリミア】真夜中の雷雨

2019/12/29 03:06
シリウス×ミアプラ(男女)雨の日のふたり
 ドドド、という音で目が覚めた。何事かとベッドから抜け出て窓を見て初めて、雨が降っているのだと知る。管理されたコロニーではこんなに激しい雨の経験をしたことがなく、この不思議な空間に来て初めて、このような雨を見ることが多くなった。
 様々な場所や時代から集められた人がこの建物にいるが、そもそもここは人工的に作られた広大な空間、あるいは人工惑星ではないかと推測されてはいる。それでも何のために誰がということまでは分かっておらず、しかし危険な事と言えば動物の暴走がある程度でそれ以外は至って普通だ。
 管理されている、人工物にしてはこのように無遠慮なほどの雨量の雨が降る日もあるし、寒波や熱波もある。自分が慣れ親しんだコロニーよりもずっと自然の惑星に近い環境が造られている。妹のイオや、友人のハレィンは惑星育ちでもあるのでこのような環境は珍しくないらしい。

「雷……」

 雷鳴が鳴っているのも、初めてここにきて聞いた。番組や本では知識としてあるが、実際体験するのは初めてのことで、深夜ではあったがそろりと部屋を抜け出し、天井がガラス張りになっているらしい中庭へと歩みを進めた。
 晴れている夜は星々が良く見えるが、今日は全く見えない。大粒の雨がガラスにたたきつけられて、つるつると粒から「水」という集合した液体になって流れ落ちていくのを見上げながら、近くのベンチに腰掛けた。
 青白い光が一瞬瞬いて、それからずいぶん経ったあと雷鳴がした。雷の光というのはこうも綺麗なのか、などと思いながら夢中になって見上げてしまう。
 ぼとりぼとりと雨がひっきりなしに落ちてきて、曲線を描いている天井を滑り落ちていく。そんなもの、と言われるかもしれないが根っからのコロニー育ちである自分にとっては酷く物珍しく面白いものだ。弱くも強くもなる雨と、だんだん音が大きくなる雷鳴を聞きながらぼんやりとそうやって時間を過ごしてしまう。夜更かしを父から禁止された記憶はないが、いつも時間通りに寝起きをしていたので夜にこうして起きて、何もせず時間を過ごすというのも、初めてのことかもしれない。

「シリウス」
「…ミアプラさん」
「どうした、まだ太陽が昇るには随分時間がありすぎるが」
「雨音で目が覚めまして…ミアプラさんは」
「夜の巡回担当だ」

 戦化粧をしたままのミアプラさんが近くに歩み寄る。彼女とイオさんは職場が近いらしく、イオさんの忘れ物を彼女が届けにやってきたことからこうしてお話させていただくことが多い。この不思議な場所に来てからはあまり会話の機会がないのは残念だが、彼女も彼女で戦闘が出来る貴重な人材ということもあって見回りや警戒などに忙しいのだから仕方がない、と思っている。

「貴殿は…、こういう雨は経験がないのか」
「ええ、その、コロニー育ちなもので…」
「そうか」

 雨が弱まる気配はない。彼女の声を聞き取るのさえやっとだ。

「雷も近い、  」
「え?」

 彼女が何かを声にしたのと同時に大きな雷鳴がして、彼女の言葉をかき消してしまう。一瞬、昼間のように明るくなるほどの鮮烈な光の後だった。

「近くに落ちたかもしれないな」
「…そうなんですか?」

 自分には良くわからないのだが、惑星育ちの彼女はこういう体験を音の大きさで感知できるほど多くしているのだろう。自分は大きな音だったと思ったことを、彼女は落雷が近くであったかもしれないと捉えるのだから。

「ああ、見てくる」

 支給されているフード付きの上着を被った彼女が、更に距離を詰めてくる。これほど近い距離感に、彼女がやってきたことはないと思う。そわりと心臓が静かに波打つような錯覚になる。

「あまり夜更かしをするなよ、と言ったんだ」
「ああ、なるほど、ありがとうございます」

 気を付けます、と返すと、彼女は小さく笑って、どうしてか頭を撫でていった。どうしてか、わからないが、此処にはイオさんより小さな子も何人かいらっしゃるのでその関係で、つい撫でてしまったのだろう、と思う。

「ではな」
「はい」

 撫でた事には何の言葉もない。やはり無意識なのだな、と思いながら、遠くなる彼女の背中を見た。
静かに波打つ心はまだおさまらないでいる。

× × × × × × ×
だぶってたら、すまんな

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