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【ファゼット】あなたが与えた好きの量
2019/11/09 01:43CP無し
ホライゾンさん。俺の手をひいた人の名前。俺の名前を呼んでくれた人の名前。背がひょろりと高くて、黙っていればきっとそれなりに外見から与えることができるだけの圧があるくせに気弱そうな表情をしていることのほうが多くて、俺に話しかける時はいちいちしゃがむ。
食事も、俺とは違って固形物をとる必要性はない、と言っていたくせに一緒に食べてくれる。くれる…というよりは、ホライゾンさんがそもそも、誰かと食卓を囲んでみたかったと言っていたのでそう言われてしまえば、俺なんかに気を遣うなという言葉を発するのは変だ。ホライゾンさんがしたくてしていることなのだし。
味覚もお互いおかしいもんだから、ホライゾンさんが何かを作ってくれてもお互い「美味い」「不味い」の判断が出来ないままこういう味なんだなとしてしまう。まともな飯なんかホライゾンさんが作ってくれたものが初めてで、口の中に入れるたび、なんといえばいいのか、温かいものも冷たい物も、甘いも辛いも、刺激的で、味覚がそれらに対してびっくりしているという感覚が徐々に出てきた。栄養剤とは違うもの。同じ液体でも無味でも薬品のような味わいでもないもの。いったいこの人はどれだけ俺に与えてくれるのだろう。ホライゾンさんが皿にのせて出すものすべてが価値あるもののようにさえ思えてくる。こういう思考は、あれだろうか、末期…ってやつだろうか。
初めて口に入れたスープも、初めて舌で転がした飴も、スプーンですくって口に入れたアイスクリームも、甘いものだと思って食べたケーキも、味は思い出せなくても見るたびにホライゾンさんと会話したおおよそのことが思い出せるのはドン引きされるかもしれないので黙っている。黙っているが、やはりどれもこれも、あの人が与えてくれたもの。
「ファゼット君は読書は好き?」
「え…?う、うん、まあ」
「そっか、どのくらい読める?」
「どのくらい」
「あっ、じゃあじゃあ、どういう本が好き?吾輩ほら、読書とか知らないこと知るの好きだから本ならそこそこ持ってるんだ」
デカイ屋敷の殆どの部屋を書庫に使うつもりだったと言っていた言葉を思い起こしながらホライゾンさんがそう尋ねて来てくれたのは彼らと暮らしだして半月たつかどうか、だっただろうか。
「読ませてくれる、の?」
「え?うん…、いや、読書がそこまで好きじゃないっていうならそれはそれでいいよ」
「…読んでいいなら、何でも読む、けど、」
顔色を窺おうと見過ぎると殴られる。だからちらりと、大人の表情を伺う癖が、抜けない。この人は俺を叩かないとわかっていてもだ。
「そっか、じゃあファゼット君の部屋にも本棚をやっぱり置こう」
「え?」
「読みたい本があったら自分の部屋に持っていっていいよ」
「や、でも、でも、ホライゾンさんの、もの、だから」
「本棚がシリウス君と君の為に購入する料理本で埋まってしまう未来が見えて来てるのでファゼット君が困らないなら本棚をあけるの手伝ってほしいんだー」
へらりと笑うホライゾンさんはそう言って、そんなこと言うから、ガキの俺が彼の手伝いができるなら、と思ってしまう。手伝いになって、自分の好きな本を所有していい、と許されてしまうと、首を小さく縦に振るしか出来なくなる。
「ありがとう」
「ううん、俺も、ありがとう」
そんな言葉を交わした昔を思い返しながら、20も過ぎるかという今、床にまで積み上げられている本をみて笑ってしまう。
「おっさんあのさあ、本棚欲しいんだけど」
「君読むペース早くない!?え、待って…!?もう入らないの!?」
「いや本が分厚いだけ」
「鈍器のような本が届くたびにびっくりしてるよ」
「好きなんだからしょうがねえじゃん」
ホライゾンさん、俺の名前を呼んでくれた人。あの日俺の手を掴んだ人。今日までの、本棚いっぱいのものも、見えないもの全て、あんたが教えてくれた、俺の好きなんだ。
× × × × × × ×
リプきたキャラかCPでかくやつ、ファゼットくんでとおっしゃっていただけました!わーい!目に見える形でも彼が幸せだと思えるものがあるって素敵です。書いた自分で言う。
食事も、俺とは違って固形物をとる必要性はない、と言っていたくせに一緒に食べてくれる。くれる…というよりは、ホライゾンさんがそもそも、誰かと食卓を囲んでみたかったと言っていたのでそう言われてしまえば、俺なんかに気を遣うなという言葉を発するのは変だ。ホライゾンさんがしたくてしていることなのだし。
味覚もお互いおかしいもんだから、ホライゾンさんが何かを作ってくれてもお互い「美味い」「不味い」の判断が出来ないままこういう味なんだなとしてしまう。まともな飯なんかホライゾンさんが作ってくれたものが初めてで、口の中に入れるたび、なんといえばいいのか、温かいものも冷たい物も、甘いも辛いも、刺激的で、味覚がそれらに対してびっくりしているという感覚が徐々に出てきた。栄養剤とは違うもの。同じ液体でも無味でも薬品のような味わいでもないもの。いったいこの人はどれだけ俺に与えてくれるのだろう。ホライゾンさんが皿にのせて出すものすべてが価値あるもののようにさえ思えてくる。こういう思考は、あれだろうか、末期…ってやつだろうか。
初めて口に入れたスープも、初めて舌で転がした飴も、スプーンですくって口に入れたアイスクリームも、甘いものだと思って食べたケーキも、味は思い出せなくても見るたびにホライゾンさんと会話したおおよそのことが思い出せるのはドン引きされるかもしれないので黙っている。黙っているが、やはりどれもこれも、あの人が与えてくれたもの。
「ファゼット君は読書は好き?」
「え…?う、うん、まあ」
「そっか、どのくらい読める?」
「どのくらい」
「あっ、じゃあじゃあ、どういう本が好き?吾輩ほら、読書とか知らないこと知るの好きだから本ならそこそこ持ってるんだ」
デカイ屋敷の殆どの部屋を書庫に使うつもりだったと言っていた言葉を思い起こしながらホライゾンさんがそう尋ねて来てくれたのは彼らと暮らしだして半月たつかどうか、だっただろうか。
「読ませてくれる、の?」
「え?うん…、いや、読書がそこまで好きじゃないっていうならそれはそれでいいよ」
「…読んでいいなら、何でも読む、けど、」
顔色を窺おうと見過ぎると殴られる。だからちらりと、大人の表情を伺う癖が、抜けない。この人は俺を叩かないとわかっていてもだ。
「そっか、じゃあファゼット君の部屋にも本棚をやっぱり置こう」
「え?」
「読みたい本があったら自分の部屋に持っていっていいよ」
「や、でも、でも、ホライゾンさんの、もの、だから」
「本棚がシリウス君と君の為に購入する料理本で埋まってしまう未来が見えて来てるのでファゼット君が困らないなら本棚をあけるの手伝ってほしいんだー」
へらりと笑うホライゾンさんはそう言って、そんなこと言うから、ガキの俺が彼の手伝いができるなら、と思ってしまう。手伝いになって、自分の好きな本を所有していい、と許されてしまうと、首を小さく縦に振るしか出来なくなる。
「ありがとう」
「ううん、俺も、ありがとう」
そんな言葉を交わした昔を思い返しながら、20も過ぎるかという今、床にまで積み上げられている本をみて笑ってしまう。
「おっさんあのさあ、本棚欲しいんだけど」
「君読むペース早くない!?え、待って…!?もう入らないの!?」
「いや本が分厚いだけ」
「鈍器のような本が届くたびにびっくりしてるよ」
「好きなんだからしょうがねえじゃん」
ホライゾンさん、俺の名前を呼んでくれた人。あの日俺の手を掴んだ人。今日までの、本棚いっぱいのものも、見えないもの全て、あんたが教えてくれた、俺の好きなんだ。
× × × × × × ×
リプきたキャラかCPでかくやつ、ファゼットくんでとおっしゃっていただけました!わーい!目に見える形でも彼が幸せだと思えるものがあるって素敵です。書いた自分で言う。