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【ノニエル】かわいいひと

2019/08/19 05:10
ノニン×エデルガルド(男女)
「(綺麗な手だ)」

 無傷とは言えない手だが、綺麗な手だとそう思った。残された右手を素直にとらせてくれて、黙っていてくれる彼女は優しい人だ。手の甲にも、指先にも、大なり小なり傷の跡が残ったまま消えないでいる。目を逸らしたままの彼女と目をあわせることは叶わない。
 それでも黙って、手を預けてくれているということは、少なからず信頼していただけていて、少なからず好意的で、彼女からすれば最大の、無言の許しなのだと思うと首まで赤くなっていそうなくらい顔が熱い。
 親指でそろりと彼女の指をなぞる。小さな傷の凹凸が触れていく。ぴくりと彼女の指が僅かに動いて反応するが、手はそのまま、俺の手に預けられている。
 いいのだ、という喜びがあふれだしていく。許されているのだと嬉しくなる。
 そっと口づけを手の甲に、おそるおそる落とすと一瞬だけ彼女と目があって、それから、逸れて、目を縁取る金の色が、彼女の目元に影を作る。僅かに視線が落ち着かないのを見て、そわそわとこちらも落ち着かない。
 先ほどより少しだけ上の位置へ口づけると、またぴくりと手が動く。
 彼女も、顔が赤く、耳も、首も、赤みが増していて、瞳は少しだけ水を多く含んでゆらゆらと光がその中で揺らいでいる。可愛い、と思って、無意識に顔を近づけてしまったらしいことを、彼女がさらに顔を逸らしたことで気が付く。
 逸らした彼女は、眉をひそめて、何かを言おうと唇を震わせている。

「いいんです」

 ちらりとこちらを見た彼女と目があう。

「俺が、その、急に、近寄ったから、謝らないで…」
「まだ、なにも」
「いいから…」

 まだどのタイミングかわかりかねるが、彼女は時折、謝る。俺が悪いのに、俺の行動を避けたことが悪かった、と謝る。許可もなく、行動をとる俺が悪いのであって、彼女が謝罪することはないのに、と思いながら、「拒んで悪かった」と、そう言う意味で謝る彼女にいつも顔が熱くなる。
 腕を首に絡めて妖艶に笑うわけでもない。好ましいと囁いて口づけてくるわけでもない。彼女は偽って、俺に好意を寄せているわけじゃないのが、なんとなしに伝わるから、嬉しくて熱くなる。
 俺が怖いから、行為を拒んでしまうというその行動が、酷く安心している自分がいる。
 彼女は、誰かとこういう仲になったのは初めてだといっていたし、貞操的な感覚が、とてもしっかりしている方だから、そう感じてくれることが新鮮だ。

「ゆ、ゆっくり、ゆっくり、いきましょう…」

 大丈夫だから、と小さく言葉を添えて告げると、彼女は、不安そうにしながらも、小さく首を縦にふる。

「(ああ……)」

 かわいいひと、と強く思う。まだ、彼女とどう距離を取り合えばいいか、どれだけ話を重ねていけばいいかわからないけど、少なくとも、この気持ちが一方的ではないという、その嬉しさで、喉が熱くなる。

◆ ◆

Twitterにて実はファンアート頂いて、その絵があまりにも性癖ドストライクでうっかり明確に手と感情がすべりちらしてかいたSSヽ( ´¬`)ノ
すっごく、かわいいんです(貰ったものを見返してにやける)

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