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【ノニエル】少しずつの見つけ方
2019/08/19 05:08ノニン×エデルガルド(男女)
恋人、というものになったのなら、何をすべきなのだろう。そんなことを殊更考えるようになったのは、ノニン・シュトロムフトにきちんと言葉にして、答えたせいだろうか。あの男に、隣に居たいと、それだけを伝えた日以来、男は猶更、優しく笑うような気がする。どことなくまっすぐ目が見れなくなったのは私が弱くなったのだろうか。笑いかけられると、どうしていいかわからないで目をそらしてしまうことが増えた気がする。
部屋に訪れても、男は何も変わらない。ただ、私だけがひとり落ち着かないでいる。男は、ただ、会話を少しして、休息の時間をただただ私と過ごすだけで帰っていく。以前より少しだけ頻度が上がったかと感じる程度で、なにも変わりがない。
これでいいのか、と思う自分はいるが、男女の付き合いというものはまるでわからないし、ノニン・シュトロムフトに尋ねるのも違うような気がする。彼は彼で、満足しているから何もしないのだろうと思う。もう少し体に触れられるようになったりするのか、と、身構えもしていたが、杞憂のようだった。そんな様子も一切ない。
ああ、もしかしたら、こんなものなのかもしれない、と張りつめていた気持ちが緩くなってしまったのか、気がつけば寝入ってしまったらしかった。一応休息時間中とはいえ、相手の時間をとっているというのに、寝てしまうというのはまずいと慌てて目を開け、自分の膝に、ひざ掛けがかけられているのが目に入る。
隣に視線を向ければ、同じように、ソファーの反対側のひじ掛けに頬杖をついて眠っているらしい男が見える。私が左で、男が右。きっちりと座る時にも距離を保ち、寝ている時でさえ、こちらに触れないように、反対方向に陣取っている。
悪いことをしてしまった、と少し思いながら、自分の膝にかけてもらっていたひざ掛けを、そっと男へかける。
優しい男なのだとつくづく思う。こちらにいつも伺いを立て、ダメだと言えばあっさりと引き下がる。今だってこうして、多分、私が寒くならぬようにと気を遣ったのだと思う。
「(起きない、ものなんだな)」
個人的な見解で、男は警戒心が高い方だと思っていた。気配を感じればすぐに視線がそちらへ動くし、眠っているように見えても浅いのか人の気配を感じるとすぐに目を覚ます。だというのに、今はぴくりとも動かないで眠っているように見える。
眠りが浅そうであるし、魘されていることも知っている。だから今、こうして深く寝入っているというのは男にとっては良いこと、だと思う。
あまりまじまじと男の顔を見たことはない。優しい笑顔のせいで忘れがちだが、男の顔立ちは私と同じ、「強面」という雰囲気の顔つきに見える。肌は不健康そうに見えるし、目の下の隈も、いつまでたっても薄くならない。
ふっと視線の落ちた隅に、男の手が見える。
いつも、ノニン・シュトロムフトから、私へ触れる。良いかと伺って、それから、やさしく手を握る。
考えて、悩んで、彼が、深く寝ているうちなら、と、そろりと右手を伸ばす。自分から触れた男の左手の皮膚は、かさついていて、骨ばっていて、少し冷たい。
恋人というものになったなら、普通は何をするのだろう。思い至った行動は、あまりにも笑われそうな気がする。好きな人の手を握る。
そんなのは、皆普通にしてしまえることなのかもしれない。皆、というか、世間一般的な女性は。私には難しい。やはり、すこし、はしたないような気がして引こうとした手を強く引き留められる。
顔を上げると目じりの赤い男と視線があって、慌てて逸らしてしまう。逸らすと一層強く握られて目が泳ぐのを嫌でも自覚する。ぎしりとソファーが悲鳴をあげて、無言で距離が詰められたことに頭の中がどんどんまとまらない。視線を自分の胸元から外せない。汗がにじんできた気がする。
「あ、汗が…」
「レスライン殿」
男がまた、距離を詰めたような気がする。でも、顔は上げることが出来ない。
「ごっ、…ごめんな、さい」
私は可愛い人になれない。
私は綺麗な人になれない。
気が利く女でもなければ、優しい女にもなれない。
震えた声が自分のもので、情けなさすら感じる。わかっていても、見て来た多くの女性と比べてしまう。
「謝るのは俺の方だ」
大きな手が顎を掴んで、気がつけば唇が合わせられていて、びくりと体に緊張が走ったのと、男がすぐに唇を離したのが同時で、それから、薬指の付け根に強く、彼の唇が押し当てられる。
きつく目を閉じた男がどれほどそうしていたのかわからない。
「レスライン殿」
手の近くで言葉が落ちる。
男の手が腕を掴んで、あっという間に、男の腕の中に収められてしまう。
「可愛い人だ」
可愛くなどない、と、言う気持ちより先に、可愛い、と、彼に言われたことが胸をまるで別の意味で跳ねさせる。友人に言われるかわいいと、まるで違う音のように聞こえる。何度か男は、私に可愛いといってはいたが、まるで違う音だ。
「か、わ、いくなんか」
「可愛いです…」
ひ、と小さく音が出る。これは、自分だろう。
「……こんな事を言うと、貴女は、不服かもしれませんが、控えめで、いじらしくて、その、可愛らしい、です」
「ぅ、ぁ」
耳まで熱くなったような気がする。全部、全部、言われたことがない。幼い頃は、言われてみたいと思ったけれど、そんなのは、父のようになりたいと、その場所を目指す自分にとっては不要だったから、幼いあの日に捨てたものだった。
泣き出したいような気持をなんども押し込める。なんども、強く。
「そんな、のは、」
「ごめんなさい、でも、…本当に、そう、思って。…許して下さらなくて、いいですから」
「ぅ、……っお、お前、なら、い、いい、ゆる、す」
強く男の肩へ顔を押し付けたのと、抱く腕の力が強くなったのが、どちらがさきか、わからない。
◆ ◆
Twitterでかいてる時空のノニエルさんの小話。
手を繋ぐことに勇気を出してみたエデルガルドさん。かわいい。
部屋に訪れても、男は何も変わらない。ただ、私だけがひとり落ち着かないでいる。男は、ただ、会話を少しして、休息の時間をただただ私と過ごすだけで帰っていく。以前より少しだけ頻度が上がったかと感じる程度で、なにも変わりがない。
これでいいのか、と思う自分はいるが、男女の付き合いというものはまるでわからないし、ノニン・シュトロムフトに尋ねるのも違うような気がする。彼は彼で、満足しているから何もしないのだろうと思う。もう少し体に触れられるようになったりするのか、と、身構えもしていたが、杞憂のようだった。そんな様子も一切ない。
ああ、もしかしたら、こんなものなのかもしれない、と張りつめていた気持ちが緩くなってしまったのか、気がつけば寝入ってしまったらしかった。一応休息時間中とはいえ、相手の時間をとっているというのに、寝てしまうというのはまずいと慌てて目を開け、自分の膝に、ひざ掛けがかけられているのが目に入る。
隣に視線を向ければ、同じように、ソファーの反対側のひじ掛けに頬杖をついて眠っているらしい男が見える。私が左で、男が右。きっちりと座る時にも距離を保ち、寝ている時でさえ、こちらに触れないように、反対方向に陣取っている。
悪いことをしてしまった、と少し思いながら、自分の膝にかけてもらっていたひざ掛けを、そっと男へかける。
優しい男なのだとつくづく思う。こちらにいつも伺いを立て、ダメだと言えばあっさりと引き下がる。今だってこうして、多分、私が寒くならぬようにと気を遣ったのだと思う。
「(起きない、ものなんだな)」
個人的な見解で、男は警戒心が高い方だと思っていた。気配を感じればすぐに視線がそちらへ動くし、眠っているように見えても浅いのか人の気配を感じるとすぐに目を覚ます。だというのに、今はぴくりとも動かないで眠っているように見える。
眠りが浅そうであるし、魘されていることも知っている。だから今、こうして深く寝入っているというのは男にとっては良いこと、だと思う。
あまりまじまじと男の顔を見たことはない。優しい笑顔のせいで忘れがちだが、男の顔立ちは私と同じ、「強面」という雰囲気の顔つきに見える。肌は不健康そうに見えるし、目の下の隈も、いつまでたっても薄くならない。
ふっと視線の落ちた隅に、男の手が見える。
いつも、ノニン・シュトロムフトから、私へ触れる。良いかと伺って、それから、やさしく手を握る。
考えて、悩んで、彼が、深く寝ているうちなら、と、そろりと右手を伸ばす。自分から触れた男の左手の皮膚は、かさついていて、骨ばっていて、少し冷たい。
恋人というものになったなら、普通は何をするのだろう。思い至った行動は、あまりにも笑われそうな気がする。好きな人の手を握る。
そんなのは、皆普通にしてしまえることなのかもしれない。皆、というか、世間一般的な女性は。私には難しい。やはり、すこし、はしたないような気がして引こうとした手を強く引き留められる。
顔を上げると目じりの赤い男と視線があって、慌てて逸らしてしまう。逸らすと一層強く握られて目が泳ぐのを嫌でも自覚する。ぎしりとソファーが悲鳴をあげて、無言で距離が詰められたことに頭の中がどんどんまとまらない。視線を自分の胸元から外せない。汗がにじんできた気がする。
「あ、汗が…」
「レスライン殿」
男がまた、距離を詰めたような気がする。でも、顔は上げることが出来ない。
「ごっ、…ごめんな、さい」
私は可愛い人になれない。
私は綺麗な人になれない。
気が利く女でもなければ、優しい女にもなれない。
震えた声が自分のもので、情けなさすら感じる。わかっていても、見て来た多くの女性と比べてしまう。
「謝るのは俺の方だ」
大きな手が顎を掴んで、気がつけば唇が合わせられていて、びくりと体に緊張が走ったのと、男がすぐに唇を離したのが同時で、それから、薬指の付け根に強く、彼の唇が押し当てられる。
きつく目を閉じた男がどれほどそうしていたのかわからない。
「レスライン殿」
手の近くで言葉が落ちる。
男の手が腕を掴んで、あっという間に、男の腕の中に収められてしまう。
「可愛い人だ」
可愛くなどない、と、言う気持ちより先に、可愛い、と、彼に言われたことが胸をまるで別の意味で跳ねさせる。友人に言われるかわいいと、まるで違う音のように聞こえる。何度か男は、私に可愛いといってはいたが、まるで違う音だ。
「か、わ、いくなんか」
「可愛いです…」
ひ、と小さく音が出る。これは、自分だろう。
「……こんな事を言うと、貴女は、不服かもしれませんが、控えめで、いじらしくて、その、可愛らしい、です」
「ぅ、ぁ」
耳まで熱くなったような気がする。全部、全部、言われたことがない。幼い頃は、言われてみたいと思ったけれど、そんなのは、父のようになりたいと、その場所を目指す自分にとっては不要だったから、幼いあの日に捨てたものだった。
泣き出したいような気持をなんども押し込める。なんども、強く。
「そんな、のは、」
「ごめんなさい、でも、…本当に、そう、思って。…許して下さらなくて、いいですから」
「ぅ、……っお、お前、なら、い、いい、ゆる、す」
強く男の肩へ顔を押し付けたのと、抱く腕の力が強くなったのが、どちらがさきか、わからない。
◆ ◆
Twitterでかいてる時空のノニエルさんの小話。
手を繋ぐことに勇気を出してみたエデルガルドさん。かわいい。