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【ノニエル】幸運というべきか、

2019/07/31 03:06
ノニン×エデルガルド(男女)
「暑い」

 くったりと項垂れてそう、珍しく呟いた彼女につい目を向けたのが失敗だったのだ。後悔してももう遅い。視界に入ってしまったものはどうにもできなかった。
 暑さからしっとりしたような肌と、襟足から伝う玉のような汗、滑り落ちて、彼女の首の横の方を、撫で滑って、服に吸い込まれていく。

「そう、ですね」

 見てしまったものはどうにもならないのに、感じたことはどうにも消せないのに、わかっていて、必死に記憶をごちゃごちゃにしようともがいて、結局どうも出来ない。視線を自分の太腿の上にのせただけの両手の拳へ向けて、彼女を見ないようにするしかできない。

「お前は暑くないのか」
「暑い、ですけど…」

 上着くらい脱げばいいのに、といった彼女は上着を既に脱いでいて、薄着姿にもう後ろめたさがある。いつもより、はっきりと上半身の体の曲線がよくわかってしまうし、時々服の襟元を暑そうに指で開けて、そこもじっとりと汗をかいているらしく、ああ、と強く目を閉じて意識を逸らす。
 室内の温度を調節する機械が壊れたのは、喜ぶべきだったろうか、何故と悔やむべきだろうか。
 薄着の姿を見れるのは、正直言ってしまえば嬉しい、と思うのだが、同時にそわついてしまう。こう思考するのはダメだと思うが、あまり彼女の姿を他の男に見られたくないと思うし、出来れば隠してしまいたいのだが、「お前くらいしか女として見ていない」と言われてしまうと、嬉しいような、いや、そうだろうかと言いたいような。
 でも俺くらい、というのならもう少しだけ、もう少し、警戒してくれたっていいのに、と思う。俺に。

「早く、修理が進むとイイですね…」
「そうだな」

 暑くて敵わない、と項垂れた彼女の、無防備にさらけ出された首筋にまた目が向いて、小さく首を左右に振る。

「どうした」
「いえ、汗が、その、」
「犬猫であるまいし」

 使え、と押し付けられたハンカチは彼女の携帯しているものの一つだ。白い生地に、何か、可愛らしい動物の刺繍が入っている。

「これしかない、んだ、すまん……男に使わせるものでは、ないとわかっているんだが」
「あ、いえ、ありがとうございます」

 彼女の香りがハンカチからしていて、ますます落ち着かない心に、しまった、と強くまた目を閉じた。

◆ ◆
そわっとむらっときちゃうのをぐっとこらえる男が好きですね

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