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【それ街】君と僕の仲だもの

2019/07/08 04:52
CP無し
 かりかりと硬質なペン先が紙をひっかいていく音を聞きながら大きくため息をついた。疲れた、という気持ちは声にはでなかったにしてもそのため息に全部乗って出てしまって、しまった、と思った時にはレイフと視線が合ってしまう。つい、しゅん、と伺うように見ると彼はにっこりと笑って、同じように書類を処理するため忙しなく動かしていた指先をびたっ、と、止める。

「休憩した方がいいんじゃないですか」

 二人しかいない室内で、レイフは母語を使う。昔から耳に馴染んでいたはずの、優しい音と、言葉も、暫く公用語の荒々しい口調になれていたために少しの違和感を伴なって頭に届く。

「う、うん、良いかな?」
「良いですよ、飲み物を淹れましょうか」

 物静かに立ち上がったレイフは、物静かにキッチンへ移動する。昔から、彼は静かな男だったが、公用語を覚えた時、あまりの雑さにどうしたんだ?と聞いてしまったし、昔馴染みで今は遠出しているレルタという男も「ああ、凄い言葉使いを選んだな」と言葉にしたくらい、このコロニーで皆が知っている「レイフ」と昔から知っている「レイフ」の言葉の選び方は逆に近い位置にある。それでも柔らかい発音は心掛けているらしいが、選ぶ単語は大分、大分だった。

「お、お茶でいいかなあ、」
「新しくオープンした店で茶葉を買ってきたところでしたから、…それを淹れましょうか」
「うん」
「少し待っていてくださいね」

 ああ、暫く公用語のレイフになれていたから落ち着かない、と、そわそわしながらだいぶ進んだ筆記の跡を目でなぞる。

「ほらよ」
「ありがとう、…急にそっち使わなくてもいいだろ?」
「お前さんがあんまりにもすごい顔するもんだからてっきりこっちの方が良いんだと思ったんだぜ?」
「あーうーん…そのー、うん…暫くこっちのほうを聞いてたから、母語はちょっとむずむずするなあ」
「たまに話さねえと忘れるからな」
「あーそうだなあ」

 頂きます、というと、レイフはにこりと笑って俺がカップに口につけたのを見てから、自分の分を口に含む。

「それにあっちの言葉はお前さんといるときくらいしか話さねえし」
「公用語ももう少し丁寧に使えるはずだろ…?」
「お前さんが優しいから俺が雑な方やってんだよ」

 ふふふ、と笑う彼の顔は、酷く穏やかだ。

「そりゃ、その、どうも、ごめんな」
「俺とお前の仲だろ、気にしなさんな」
「うん、ありがとう」
「どういたしまして」

 ペンの音と、タイピングの音が止んだ静かな部屋は、少しの間だけ、お茶の香りが漂っていた。

◆ ◆ ◆
丁寧な言葉で話してるレイフさんは母語だけど、荒っぽいときは公用語……かっこの形を変更した方がわかるかな???と思いつつ悩んでしまう。そのうちしれっと変わってるかもしれないし変わらないかもしれない

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