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【それ街】何が好き?

2019/07/08 04:33
シリウス×ミアプラ(男女)
 休憩室でソファーに腰かけ、雑誌を膝の上へ載せてぱらぱらと捲っている少女の向かいの席へそっと腰かける。気がついてはいるがちらりと顔を上げてこちらを見た程度で特に話しかけてくるでもない少女は、初めて会った時から変わらない。
 グラスへ水を注いで、お前も飲むかと聞けば「うん」と返事が返ってくるので彼女の分も用意して、そっとテーブルの上へ置く。

「ありがとう」

 さっと自然にその言葉が出る彼女は、いいこだ。

「どういたしまして、何の雑誌を読んでるんだ」
「ファッション雑誌、誰が置いたのかわからないけど」
「さあ……休憩室によくイオがいるから、それで誰かが買ってきたのかもしれないが」
「どうして?」
「女の子だから、そういうものに興味があるかなと思って買ったりしたんじゃないか?置いてある雑誌の殆どは機械関係だし」
「あー、そっか。イオは別に、そっちでもいいけど…」
「まあ、娘を持っている者もいるし…可愛がっているんだろう、イオを」
「そーなんだ」

 ふぅんと言って、それからページをぱらりと捲る。不思議そうな顔をしつつもどこか納得はしたらしい。

「でもミアプラさんも女の人だよ」
「ああ、まあ、私は興味がないとはっきり言ってるしな……」
「ふうん??ミアプラさんは、じゃあ何が好きなの?」
「私か」

 言われて少し考える。困ったことに、戦う事が一番楽しいので、ぱっとは浮かばない。

「浮かばないが、強いて言うなら、菓子類の本、かな…作り方、とかではなく…」
「…写真とかのってるだけの?」
「そうだな、実際作ったりは興味もないが……。小さい頃近所に菓子作りが得意な人がいて、いつも楽しく思っていたから、何がと言われてあげるならそれかな」
「お菓子好きなの?何が好き?」
「ふむ、あまりそれも考えたことがないが……甘すぎるのはダメだが、自分で味を調節するタイプのものは好きだな…ジャムをつけたりバターをつけるような」
「そうなんだ、お兄ちゃんに教えていい?」

 彼女にはうんと年の離れた義兄がいる。雲のような真っ白い髪と林檎のような赤い瞳と、物静かな雰囲気は彼女と似ている。

「シリウス殿にか?どうして」
「……お兄ちゃんもお菓子作るの好きだから。ミアプラさんがダメっていうなら言わないけど」
「いや、困るものではないから、平気だ」
「そうなんだ、じゃあ、教えておく」

 うんうん、と小さく納得している彼女を少し不思議な気持ちで見てしまう。少し前から、彼女はこんな感じだ。シリウス殿にも教えていいかと必ず許可をとる。私としては、困るようなことを教えていいかと聞かれてはいないのでいつも、良いとしかいわないのに、彼女は律儀に「良いか」と尋ねてくるのが真面目で好印象だ。
 別に都度聞かなくてもいいのに、いつもそうして聞いてくれる。

「シリウスお兄ちゃんはねえ、ケーキもクッキーもパンケーキも得意。あ、焼くのが得意…??」
「そうなのか」
「今度、……ミアプラさん遊びに来て?」
「遊びにか?ご迷惑ではないか?レヴェンデル殿はお忙しいだろうに」
「ホライゾンさん?」

 彼女はあまり、義父のことは「父」とは呼ばない。今のように名前で呼ぶことの方が多いのはまだ来て日が浅いからだろうか。

「ホライゾンさんなら……賑やかなのは好きだし、お部屋からあんまり出てこないから大丈夫だよ」
「そうなのか?……静かな雰囲気が好きなのだとばっかり……」
「ああ、よく言われるけど、違うの、ホライゾンさんはね、きゃっきゃしてるのがいいんだよ」
「きゃ・・・?」
「きゃっきゃっ」
「なんだそれ」
「えっとねーわいわいがやがやーみたいな」

 知らないけど、というあたり家族の誰かが言っていたのだろう。

「まあ、その、きゃっきゃ?しても良いというなら、構わないが」
「おーやったーあとで連絡するね」

 大きな目をぱちぱちと瞬かせた彼女は、いそいそと誰かに連絡しているようだった。

◆ ◆ ◆
お兄ちゃんとミアプラさんのなんだかんだを見守る女児()

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