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【壁友】真夜中の鼻歌

2019/07/02 05:09
CP無し
 微かな鼻歌が聞こえてきて、ひく、と耳を動かす。隣の部屋にいる男が歌っているのだろう。就寝の時間帯にも拘わらず、隣の男は随分自由に寝起きするスタイルらしい。日中の時間帯に寝ているらしいこともあれば、こうして深夜の時間帯に起きて鼻歌を歌ったりしている。流石に夜更けでは男も話しかけてはこないのが救いではある。
 実際、声しか聴いたことがなく、自称男性という「男」と想定している隣人についてはまるで情報が手に入らない。割と質のいい自分のような地位の高い軍人などを収容する独房にいるくらいなのだから、男もそれなりの地位なのではないかと思ってはいるが、時々様子を見に来る看守の扱い的に、そうでもないようではある。
 「男」の名前は未だわからない。彼曰く、困らないとのことで、実際困らない。困らないが、あちらはあれこれこっちの情報を把握しているのに、自分は僅かな情報しか持ちえていないのが細やかに悔しい。
 何の歌かと耳の神経をぴくぴくと集中させるが、あまり聞き知ったメロディーではない。まあ、元々メディアなどは進んでみなかったので、自分が知らないだけどの流行りの歌の可能性はある。
 ふう、と小さくため息をつき。シーツを被る。

「ガルムさん?」

 優しそうな、それでいて起こすのが目的ではない小さな声で話される公用語は、少しの癖を感じるが整っているようにも思う。
 目を閉じ、黙していると、男はそれ以上何も声をかけてこない。
 そうしてまた、なにやら楽しそうに、鼻歌を混ぜて、ごそごそと何かしているようだった。

◆ ◆ ◆
いいねの数だけ小話をかくーみたいなのから。
壁越しの友もひとつくらいはかいておきたいですね…

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