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【ノニエル】まるで私は花のようだと、

2019/06/30 03:17
ノニン×エデルガルド(男女)
 もう少しだけ、と言われてどのくらいたったのだろう。随分長いような気もするし、まださほど経っていない気もする。
 優しく抱き寄せられたのは初めてで、あれほど優しく、強く触れられたのも初めてで、どうしていいのかわからないまま、私でいいのならと身を寄せてみるなどしたが、拒絶はされなかった。されなかったのだ。
 彼からそうしたのだから拒絶がないのは当たり前、と言えば、「当然当たり前だ」と誰かに言われるのかもしれないが、私のような者を、求める者は、この男くらいで、比較対象がない。物語の夢見がちな、甘く優しいやりとりしか浮かばないまま、けれど、私は物語に出てくるお姫様になることは叶わない。いや、それは、遠く昔に捨てたものだったから、別に望んではいなかったが、一人の、女性として扱われることは酷く気持ちを揺さぶった。
 勤務中なのに、だとか、誰かにみられたらだとか、様々なことは頭を支配して、今すぐ離れた方が良いと警鐘を鳴らしているのに、もう少しくらいならと思う自分がどこから現れているのか見当がつかない。
 肩に触れている男の額から熱が服越しに伝わるようで、いやに緊張する。

「す、すいま、せん、その、あ、おれ」
「え?」

 ぱっと離れた男の顔が酷く赤い。何があったのかわからないまま男を見つめても、何も言わないまま、すいませんと繰り返す。

「く、くるしかった、んですよね?す、すいません、おれ、つ、つい、」
「い、いや、別に、」

 そんな事を気にする余裕もなかったのだが、と言うのは、まだ戸惑われる。

「そう、なんですか?なら、…それなら、良かったです」
「べ、つに、やわには出来ていないのだから」
「いいえ、俺が貴女を大切にしたいので…そういうことではないんです」
「そ、そう、か」

 普段はつっかえて話すのに、時々するすると言葉を並べる男にどぎまぎする。

「もう、ほんとうに戻る」
「は、はい、あの、……お気をつけて」
「……あ、…ああ、気を付けよう」

 酷く嬉しそうにする男の笑みが月の明かりで僅かに照らし出される。やわにできていない、と言いたかったが、男の言葉を思い返せば、言うことは躊躇われた。
 夜風を肩で切る様に歩けば、この顔の熱さはまぎれるのだろうか、と思考しながら背を向けた。

◆ ◆ ◆
いいねの数だけ小話をかくタグのです。
好きな二次創作小説で、こういう感じのタイトルがあって、すごく好きなんですね…こうじゃないんだけど、その小説の方が凄く素敵なタイトルなんですけど……「あのひとだけが自分のあるがままをみとめてくれる」みたいなのがこう好きで、すき、すきでね????

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