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【ノニエル】許しの言葉
2019/06/30 03:06ノニン×エデルガルド(男女)雨の日のふたり
「雨、ですね」
「致し方ないだろうな」
片腕だけで、ページを静かに捲る姿を、いつもよりは少しだけ近い位置で見れている。ソファーの両端。それぞれに座って、ただ時間だけが過ぎていくばかりでも、苦にはならない。彼女しか住んでいない家の中は当然、一人分のものばかりが多い。ソファーも、来客を考えてはいるものの、小さめなように感じる大きさだ。
何か話した方が良いだろうかと思うも、何も話題は浮かんでこない。読書の邪魔をするのは気が引けてしまう。細やかな逢瀬の時間を許されているだけで良しとして、僅かな空気と時間の供用を許可されるだけで良しとして、そこから先はまだ、勇気が出ずにいる。
勝手に淹れろと言われて渡された茶葉は少し苦みのある飲み物で、言葉が出ないかわりに静かに口をつける。迷ったまま結局とどまっている言葉たちとともに飲み込むのを何度繰り返したのかわからない。
彼女の家の中へ上げて頂いた、ということだけでも信じられないような現実で、浮足立ちそうだ。
親しい間柄になったら、普通はどういうことをするんだろう、と考えて、まとまらない。民の普通に触れてはきたが、それでも、至らない部分はある。暗黙の、親しい間柄でのルールがあるのかどうかも知らない。
淡々と、彼女の読む本は、ページの厚みを右から左へと移していく。かなり擦り切れている表紙や色あせたページの上の方から、長く読んでいるんだろう、とは思う。思っても、何の本なのか聞くのは、失礼だろうか、と考え込む。
窓には雨が時々風で叩きつけられる。酷くならないうちに帰ろう。帰る方が良い。
「あの、レスライン殿、そろそろ、御暇します」
「………そう、か」
「はい」
ぱたん、と栞が挟まれることもなく閉じられた本が、そのままテーブルの上に置かれる。
「見送りは大丈夫、です」
「……わかった」
立ち上がろうとした彼女を手で制し、そろそろと移動する。
「そ、その、本日は、お邪魔いたしました」
「……その、……、また、な」
小さすぎる声だったが、確かに聞こえた言葉に、耳が熱くなるような気がする。返事をしあぐねていると、ぎろりと睨まれるが、今ばかりは、いつものように振る舞えずにいる。
「さっさと行け」
「は、はい、ま、また、っき、きま、す」
来てもいいのだろうか、と少し不安に潰されそうになりながら、そう、なんとか声にして、
「…わかった」
許しの声に、またひとつ、体温があがった音を聞いた。
◆ ◆ ◆
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「致し方ないだろうな」
片腕だけで、ページを静かに捲る姿を、いつもよりは少しだけ近い位置で見れている。ソファーの両端。それぞれに座って、ただ時間だけが過ぎていくばかりでも、苦にはならない。彼女しか住んでいない家の中は当然、一人分のものばかりが多い。ソファーも、来客を考えてはいるものの、小さめなように感じる大きさだ。
何か話した方が良いだろうかと思うも、何も話題は浮かんでこない。読書の邪魔をするのは気が引けてしまう。細やかな逢瀬の時間を許されているだけで良しとして、僅かな空気と時間の供用を許可されるだけで良しとして、そこから先はまだ、勇気が出ずにいる。
勝手に淹れろと言われて渡された茶葉は少し苦みのある飲み物で、言葉が出ないかわりに静かに口をつける。迷ったまま結局とどまっている言葉たちとともに飲み込むのを何度繰り返したのかわからない。
彼女の家の中へ上げて頂いた、ということだけでも信じられないような現実で、浮足立ちそうだ。
親しい間柄になったら、普通はどういうことをするんだろう、と考えて、まとまらない。民の普通に触れてはきたが、それでも、至らない部分はある。暗黙の、親しい間柄でのルールがあるのかどうかも知らない。
淡々と、彼女の読む本は、ページの厚みを右から左へと移していく。かなり擦り切れている表紙や色あせたページの上の方から、長く読んでいるんだろう、とは思う。思っても、何の本なのか聞くのは、失礼だろうか、と考え込む。
窓には雨が時々風で叩きつけられる。酷くならないうちに帰ろう。帰る方が良い。
「あの、レスライン殿、そろそろ、御暇します」
「………そう、か」
「はい」
ぱたん、と栞が挟まれることもなく閉じられた本が、そのままテーブルの上に置かれる。
「見送りは大丈夫、です」
「……わかった」
立ち上がろうとした彼女を手で制し、そろそろと移動する。
「そ、その、本日は、お邪魔いたしました」
「……その、……、また、な」
小さすぎる声だったが、確かに聞こえた言葉に、耳が熱くなるような気がする。返事をしあぐねていると、ぎろりと睨まれるが、今ばかりは、いつものように振る舞えずにいる。
「さっさと行け」
「は、はい、ま、また、っき、きま、す」
来てもいいのだろうか、と少し不安に潰されそうになりながら、そう、なんとか声にして、
「…わかった」
許しの声に、またひとつ、体温があがった音を聞いた。
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