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【キッチン閑話】人ったらしと彼は言う

2019/06/14 05:09
CP無し
 多種多様、十人十色、という言葉があるようだが、まさにそれだとセルベルは思いながら食堂をキッチンから眺めていた。食べ終わった者は皆誰がそうと決めたわけではなかったがこちらに空になった食器を持ってきて、人種も育ちも違うが一様にごちそう様、と声をかける。
 バイキング形式での食事方法をとることに決めたのは、料理担当者の一人であるロトアという男性だった。こんなに大人数に一個一個作ってる暇があるかと言いながらもバランスよく食事してもらえるようにあれこれとその場にある食材を使って調理していく姿は見習いたくもある。

 料理がある程度出来る、という者は限られていて、常に固定メンバーで朝昼晩と作る事が多い。下ごしらえなどは夜に起きることを好んでいる人たちにロトアが頼んでいるのでいくらか楽ではあった。
 女性も何人か手伝ってはくれるものの、趣味で料理をしている、とか本業だとかとなると限られていて、ロトアと自分が主に主軸になって動いているところでもある。ただデザートに関してはサリィル、という独特の化粧を顔に施して、角、が額から二本生えている男が担当している。
 リーダーは誰なのかと言われたら、ロトアだ、と自分は云うだろうし、恐らくサリィルもいうだろう。彼はそういう環境に余程慣れているらしく、騒がしい中、控えめに控えめに発言する音さえ拾い上げてリクエストに応えたり、自分たちへ指示をしてくれる。確実にこのキッチンに立つメンバーの中では主軸だ。大きな淡く赤い瞳と、左の耳にだけつけている細長い円柱にみえるピアスがよく記憶に残る。一度だけ近くで見た時、そのピアスの中で星空が瞬いているかのようにきらきらと何かが輝いていたのが印象的だった。不思議なピアスだ、と告げた時彼は嬉しそうに笑った後、「兄貴が昔くれたんだ」と言っていた。

「ごちそーさまーセルベルー、今日もおいしかったー」
「はい、よかったです」

 兄貴、とロトアが指したのが今まさに食器を自分に預けるついでに手を握ってきたロルフという男性だ。長く伸ばした黒髪は、そういう事に疎い自分でも分かるほどに艶々としていて後ろ姿だけ見れば女性か、と一瞬思うほど手入れがされている。リーゼロッテが素敵ね、とその美しい黒髪を指で梳いていたのを見たことがあった。
 ロルフは、いつも誰かと一緒に居て、それで輪の中心にいるというよりは、輪を形成するタイプの人のようだった。誰とでも分け隔てなく接しているからか彼の声掛け一つですぐに話し合いが保てたり、場の空気が穏やかになる。海賊、とは聞いたものの、鼻にかかるように一本ついている傷跡以外では、あまりその実感は持てていないくらいにはいい人だ。やたらスキンシップが多いのと男女問わず口説く事を除いては。最初も手を握られたときは驚いたが、今ではああまたかと思う程度には慣れてしまっている。

「ロルフさんはこの後は」
「お・し・ご・と」
「いってらっしゃい」
「ありがとー」

 ひらひら、と手を振るだけに今日は留めているらしい。食堂にいる人数が少ない時間は、投げキッスをする人なのだが、そもそもそれをしているのをロトアに見つかると彼が、お玉を振りかざしておいかけることもまあ、あったので、仲良しなのだな、と思ってみている。ロトアはロルフの前で彼を誉めるという事はしないようだというのもわかってきた。
 自分といる時はあれこれと自分の兄貴分のいいところ、を話してくれるが、二言目には「あいつはタラシだから気を付けろ」とつく。確かに人付き合いはいいし、結構誰かと誰かの仲を取り持っていることも多い。
 低くて男性らしい声はいつも穏やかで優しい音しか出さないし、女性との会話も随分となれているようで、会話下手で困っていた所を何度か助けてもらったこともあった。
 本当に悪い人、には今のところ見えないのだが、ロトアといいロルフといい不思議な人柄だ、と考えてしまう。


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船長はどこでもあれだなって()

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