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【おおかみさんとあんこ】せんせいとわたし

2019/06/14 05:01
CP無しセルフクロスオーバー
 不思議な世界に迷い込んで、まあ、何ともなく、よくわからない連中の事が少しずつ分かってきて、僅かながら慣れてきたなと思いながら洗濯物を干すのが自分の当番のようになっていた。同じような役割分担になっているのが離れたところでこれまた同じようにシーツを干しているロトア・カルノさん、という人で、彼は海賊…らしいのだがいまいちそんな雰囲気がない。
 今日もいい天気だからシーツ干しちゃおうぜなんて気さくに話しかけてくれたし。見目は大分俺の方が変わっているんだなあとはこの世界に迷い込んできた人たちの大半を見てそう感じていた。皆耳、側面についてるし。

「おーかみせんせー!」

 どたどたとした足音にぎょっとして耳をぴっとたて、振り返ると、洗濯籠を両手でもって、いい笑顔で駆け寄ってくる女の子が見える。バシンとシーツの皺を伸ばし、慌てて駆け寄ったところで間一髪、彼女が転ぶのを防げたことにほっとする。

「あっぶな…アン子ちゃん平気か?」
「なにでした?」

 思いっきり俺にぶつかった衝撃で顔を洗濯ものに突っ込んでしまったせいで前髪がしっとり濡れて額に張り付いている。

「ああ、うん、今日もげんきですか?」
「げんきでしたです!!!」
「そーですか」

 淡い茶色の髪と、くりくりとしたこげ茶色の大きな瞳が屈託なく、純粋にこちらを見上げている。19歳という年齢の割には幼すぎるのだが、妙な所で知識はそろっているらしく、時々むせることも多い。

「おーかみせんせもげんきですでした?」
「先生はいつでも元気いっぱいです」
「わあー!よかったです!!」
「ありがとう、先生もアン子ちゃんが元気で嬉しいです」

 もうすぐ20歳になろうかという女の子にすることではないのだろうが、彼女は頭を撫でられるのが好きらしい。さらさらとした撫で心地の髪をなでると、嬉しそうに押し付けてくる。

「おせんたく!もってきましたです!」
「ありがとう、助かります」

 きらきらした目がこちらを見上げ、柔らかく細められた後、きゅっと目を閉じて頭が差し出される。もう一度優しく撫でると彼女の巻き気味の尻尾が千切れそうなくらい左右に揺れる。無邪気で良いなあとつられてつい、自分の尻尾も左右に揺れるのを自覚する。

「今日も挑戦してみようか?」
「いいですか!!?」
「いいです」
「します!!!」

 彼女はメイド見習いらしく、立派なメイドになりたい、と頑張っている。いまいち成果は上がらないのだが、全くダメ、というわけでもない。根気強く付き合ってやれば少しずつ理解を示し、少しずつ実行が出来る。そんな彼女の「メイドになる」という目標を手伝うのが楽しかったりするのだ。

◆ ◆ ◆
おおかみさんは優しい

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