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【バニラあんこ】貴女が一番大切なの
2019/06/14 04:37CP無し
「なんですのそれ」
アン・ティエラの手の中にある布切れ同然の物体と、それから針と糸、何だと聞かなくても察することは出来そうだったが様々な可能性を考えて、バニラはそう彼女に尋ねた。
「ぞーきん!です!」
ぽんと即座に帰ってきた答えと、向けられた屈託ない笑顔に、大きなくりくりとした瞳を、バニラはきつく細め、眉を潜める。
「雑巾ですって?随分くっちゃくちゃじゃないの!貴女ホント不器用ね!!」
雑巾というにはあまりにも歪すぎた。糸の縫い方は均一ではないし、力も引っ張りすぎたり、緩すぎて何が何だかわからない。頓着しなかったのかところどころ糸がからまって玉になっているし、お世辞でも「上手ね」とは言えない代物が眼前にあった。雑巾、雑巾とも言い難い、なりそこなった布の塊だ。
「あ、がんばた、です、」
しゅん、と俯いた彼女の言葉が真実だと、バニラは他の誰よりもわかっているという自負がある。種は違うし、ランクもバニラが上ではあるが、アンというこの年上の少女は年下の自分を心から慕ってくれた。
バニラ自身、周囲からあまりよく思われない性格をしているのは承知だった。
ネコ族の中でも自分のプライドというものが群を抜いて高すぎることの自覚はあったが、今雇ってくれている主人はそこも含めて構わないといってくれた。主人がいいと言ってくれたものを自分が否定する気も、させる気もバニラにはない。
周りがひそひそと囁き、少し落ち込んでいたときこのどうしようもなく努力に結果が結びつかないアンというイヌ族のメイド見習いに出会った。彼女は自分の物言いに対して眉を潜める事さえなく、うん、と素直に笑って見せたのだ。凄いと自分を心から賞賛して、年下の自分へ、「もっと教えて」と請うた。彼女と、きっと誰よりも多く時間を密に過ごしたのは自分だという絶対の自信が、あった。
「貸しなさいよ!バニラちゃんがお手本見せてあげるんだから感謝して!」
そして、彼女が本当に一生懸命、メイドとしてのノウハウをつけたいとずっとずっと努力をして、でもそれがうまくいかないのも知っていた。それでも彼女は、道をあきらめることがなかった。イヌ族は下働きとしての教育を受けて、雇ってもらい始めて一個体としての権利を得る。20歳になっても、固定の主を持たぬイヌの末路は知れている。
道端で家も持たずに身を寄せて、ノライヌとして生活をしているものだっている。そんな事に、たったひとり自分の態度を、主人と同じように好きだといってくれたこの年上の女性を、そうさせたくないと思うからこそ、彼女の手の中の雑巾と針と糸をひったくった。
「おてほん!おてほん!ありがとですバニラちゃ!」
「特別なんだからね!ふん!ちゃんと見なさいよ!バニラちゃんが特別に秘訣を教えてあげるんだからね!!」
「ひ」
「ひけつ!ないしょのことよ!」
「ないしょ!ないしょうれしーです!」
にこにこ、と屈託なく笑って、そうして傍に寄ってくる彼女を嫌だと思ったことなど、一度もない。
◆ ◆ ◆
バニラちゃんにとって、アンちゃんこそが一番輝いてる
アン・ティエラの手の中にある布切れ同然の物体と、それから針と糸、何だと聞かなくても察することは出来そうだったが様々な可能性を考えて、バニラはそう彼女に尋ねた。
「ぞーきん!です!」
ぽんと即座に帰ってきた答えと、向けられた屈託ない笑顔に、大きなくりくりとした瞳を、バニラはきつく細め、眉を潜める。
「雑巾ですって?随分くっちゃくちゃじゃないの!貴女ホント不器用ね!!」
雑巾というにはあまりにも歪すぎた。糸の縫い方は均一ではないし、力も引っ張りすぎたり、緩すぎて何が何だかわからない。頓着しなかったのかところどころ糸がからまって玉になっているし、お世辞でも「上手ね」とは言えない代物が眼前にあった。雑巾、雑巾とも言い難い、なりそこなった布の塊だ。
「あ、がんばた、です、」
しゅん、と俯いた彼女の言葉が真実だと、バニラは他の誰よりもわかっているという自負がある。種は違うし、ランクもバニラが上ではあるが、アンというこの年上の少女は年下の自分を心から慕ってくれた。
バニラ自身、周囲からあまりよく思われない性格をしているのは承知だった。
ネコ族の中でも自分のプライドというものが群を抜いて高すぎることの自覚はあったが、今雇ってくれている主人はそこも含めて構わないといってくれた。主人がいいと言ってくれたものを自分が否定する気も、させる気もバニラにはない。
周りがひそひそと囁き、少し落ち込んでいたときこのどうしようもなく努力に結果が結びつかないアンというイヌ族のメイド見習いに出会った。彼女は自分の物言いに対して眉を潜める事さえなく、うん、と素直に笑って見せたのだ。凄いと自分を心から賞賛して、年下の自分へ、「もっと教えて」と請うた。彼女と、きっと誰よりも多く時間を密に過ごしたのは自分だという絶対の自信が、あった。
「貸しなさいよ!バニラちゃんがお手本見せてあげるんだから感謝して!」
そして、彼女が本当に一生懸命、メイドとしてのノウハウをつけたいとずっとずっと努力をして、でもそれがうまくいかないのも知っていた。それでも彼女は、道をあきらめることがなかった。イヌ族は下働きとしての教育を受けて、雇ってもらい始めて一個体としての権利を得る。20歳になっても、固定の主を持たぬイヌの末路は知れている。
道端で家も持たずに身を寄せて、ノライヌとして生活をしているものだっている。そんな事に、たったひとり自分の態度を、主人と同じように好きだといってくれたこの年上の女性を、そうさせたくないと思うからこそ、彼女の手の中の雑巾と針と糸をひったくった。
「おてほん!おてほん!ありがとですバニラちゃ!」
「特別なんだからね!ふん!ちゃんと見なさいよ!バニラちゃんが特別に秘訣を教えてあげるんだからね!!」
「ひ」
「ひけつ!ないしょのことよ!」
「ないしょ!ないしょうれしーです!」
にこにこ、と屈託なく笑って、そうして傍に寄ってくる彼女を嫌だと思ったことなど、一度もない。
◆ ◆ ◆
バニラちゃんにとって、アンちゃんこそが一番輝いてる