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【ヴェルヴァル】恐らくはそう
2019/06/14 04:30CP雑多
彼女を言い表すなら、朗らかな女性という言葉が妥当かと思う。特別美しいわけではない。どちらかといえば地味、というのは失礼なのかもしれないが、目立つ事はない顔立ちをしている。
少しだけ淡い青の入った黒の…ブラッディ家の血がはいっているのだろうその髪は、癖がなく、長く伸ばされて、下の方で結われている。少し露出の多い格好は、気にはなるが、その性格は悪戯をするのが好きらしい。初めて会った時は非常に大人しい印象を受けたが、二度目、二度目にあったとき彼女は小柄なその体を外套の中に滑り込ませるように潜り込み、こちらを見上げて笑った。
年下の女性ではあるが、弟ほど離れているわけでもない彼女は既に出会った時点で何人かの夫がいた。
「レヴェンデルさん」
小さなベルが鳴るような高く、細やかな声で彼女は私を呼ぶ。
「…今日のご予定はないのですか?」
「今日はレヴェンデルさんとの予定がありますよ」
そういって腕を絡めながら、さも当然と言わんばかりに外套の中に潜り込んで、秘密事でも話すように小さく唇を開けて彼女は言葉を紡ぐ。
「そうおっしゃって頂けますと、光栄です」
「レヴェンデルさんって真面目なんですね、貴方の方が年上ですのに」
私に対してそのような、と彼女は小さな唇の口角を優しくあげ、微笑む。
「他の方に比べますと、私は少々、歳が過ぎます…若い貴女から見れば、面白みがない、かと」
「まあ、そんなことないですよ」
彼女の他の夫は、全員彼女と年の頃が変わらないのは知っている。そうであるのに年齢が離れている私の言葉に応え、彼女からも好意を寄せて頂いたばかりか、こうして何をするでもなく静まり返った屋敷の中を歩いているときでさえ彼女は私の外套の中に潜り込んでひそひそと話す。
「レヴェンデルさんは大人の魅力がありますもの」
ころころ、と彼女の声が左腕の方で弾む。
「それに弟さんも、可愛いと思います」
「あまりあれで遊ばないでやって下さい。あれは…女性と会話をするのが不得手のようなので」
「そこが可愛いんです」
「ヴァルトルーデ様」
ふふふ、と柔らかく弾む音がする。彼女が弟のホライゾンをなんだか気に入っているのは察している。
男女関係になりたいのか、は別としても、ホライゾンは女性と接する経験が少なかったために社交場に連れて行ってもほとんど、レヴェンデル家の近親者はおいておくとしても、他の家の異性はおろか同性とさえ会話もせず、隅の方で背を丸くして、時間が過ぎるのを待っているのが常だった。
そんな弟に彼女は見かける度声をかけて、恐らくからかっている様子があった。
「あまり弟さんを庇うと、私が誰かに話してしまうかもしれませんよ?レヴェンデル家のご当主は劣等者の弟君が酷くお気に入りであらせられるようだ、と」
彼女の瞳を伺うことは出来ない。それでも声音はこちらを伺うような、釘をさすような真剣な声だ。
「貴女はそのような方ではない、だから」
「光栄です」
ブラッディ家は武人の家系。彼女は少し直系からは逸れはするが、口が堅く、軽率に吹聴するなどということは好まない。悪戯は、好きではあるが。
愚鈍でもない故、言葉の末尾を拾い上げて、重ねる。
「今日もたくさんお話ししましょうね」
滑らかな曲線を持った手が左手を包み、笑う。
弟の言葉を借りるなら、「特別に好き」なのだ。彼女の事が。恐らく。
◆ ◆ ◆
兄上と奥さんですね…
少しだけ淡い青の入った黒の…ブラッディ家の血がはいっているのだろうその髪は、癖がなく、長く伸ばされて、下の方で結われている。少し露出の多い格好は、気にはなるが、その性格は悪戯をするのが好きらしい。初めて会った時は非常に大人しい印象を受けたが、二度目、二度目にあったとき彼女は小柄なその体を外套の中に滑り込ませるように潜り込み、こちらを見上げて笑った。
年下の女性ではあるが、弟ほど離れているわけでもない彼女は既に出会った時点で何人かの夫がいた。
「レヴェンデルさん」
小さなベルが鳴るような高く、細やかな声で彼女は私を呼ぶ。
「…今日のご予定はないのですか?」
「今日はレヴェンデルさんとの予定がありますよ」
そういって腕を絡めながら、さも当然と言わんばかりに外套の中に潜り込んで、秘密事でも話すように小さく唇を開けて彼女は言葉を紡ぐ。
「そうおっしゃって頂けますと、光栄です」
「レヴェンデルさんって真面目なんですね、貴方の方が年上ですのに」
私に対してそのような、と彼女は小さな唇の口角を優しくあげ、微笑む。
「他の方に比べますと、私は少々、歳が過ぎます…若い貴女から見れば、面白みがない、かと」
「まあ、そんなことないですよ」
彼女の他の夫は、全員彼女と年の頃が変わらないのは知っている。そうであるのに年齢が離れている私の言葉に応え、彼女からも好意を寄せて頂いたばかりか、こうして何をするでもなく静まり返った屋敷の中を歩いているときでさえ彼女は私の外套の中に潜り込んでひそひそと話す。
「レヴェンデルさんは大人の魅力がありますもの」
ころころ、と彼女の声が左腕の方で弾む。
「それに弟さんも、可愛いと思います」
「あまりあれで遊ばないでやって下さい。あれは…女性と会話をするのが不得手のようなので」
「そこが可愛いんです」
「ヴァルトルーデ様」
ふふふ、と柔らかく弾む音がする。彼女が弟のホライゾンをなんだか気に入っているのは察している。
男女関係になりたいのか、は別としても、ホライゾンは女性と接する経験が少なかったために社交場に連れて行ってもほとんど、レヴェンデル家の近親者はおいておくとしても、他の家の異性はおろか同性とさえ会話もせず、隅の方で背を丸くして、時間が過ぎるのを待っているのが常だった。
そんな弟に彼女は見かける度声をかけて、恐らくからかっている様子があった。
「あまり弟さんを庇うと、私が誰かに話してしまうかもしれませんよ?レヴェンデル家のご当主は劣等者の弟君が酷くお気に入りであらせられるようだ、と」
彼女の瞳を伺うことは出来ない。それでも声音はこちらを伺うような、釘をさすような真剣な声だ。
「貴女はそのような方ではない、だから」
「光栄です」
ブラッディ家は武人の家系。彼女は少し直系からは逸れはするが、口が堅く、軽率に吹聴するなどということは好まない。悪戯は、好きではあるが。
愚鈍でもない故、言葉の末尾を拾い上げて、重ねる。
「今日もたくさんお話ししましょうね」
滑らかな曲線を持った手が左手を包み、笑う。
弟の言葉を借りるなら、「特別に好き」なのだ。彼女の事が。恐らく。
◆ ◆ ◆
兄上と奥さんですね…