SSS倉庫
【SSSとかいう長さではない】彼氏会typeB
2019/05/28 03:59リーンハルト×カタシロ(男男)ソゾ×ミケ(男男)ナツヒコ×ユーディルガー(男男)
「リーンハルト・アロン上等兵、だな?」
そう声をかけられたのは中継基地に寄った時の事だった。カタシロ大佐と同じくらいあるだろう背丈の、赤茶の長い髪を下の方でゆったりと結わえた髪型をした人。紫のマントをつけているので、階級が上だろう、というのと、確か、見たことがあるなと思う。多分記憶違いでなければソゾ・サザナミ大佐、とおっしゃったはずだ。
「はっ、そうですが…」
「お前に話がある、ついて来い」
「ぇ…は、はぁ」
何だろう、とあれこれ考えながら後を追う。すれ違う人たちが珍しそうに見てくるんだけど、そりゃあ、大佐クラスが上等兵の俺如き、しかも部下でもなんでもない奴に声かけて呼び出してたらそんな顔しますよねえと思う。サザナミ大佐は穏やかそうな顔だし、評判も悪いことは聞かない。本当俺に何の用事が、と思いながら連れてこられたのは上官が使う多目的の部屋だ。セキュリティが他よりがっちりしてる奴。内密な話、とかなんだろうか。
「入れ」
「は、はあ」
言われて中もろくに確認しないで(したらしたで何か勘繰られそうだからしないで正解なんだろうけど)入ったら、中にもう一人。同じ紫のマントを羽織っている人がいる。特徴的なのは下半身が獣人系っぽい、というところだ。人数も人数な軍だから、正直サザナミ大佐は存じていても目の前の方がどちらさんか、なんて想像がつかないし何で俺上官二人に挟まれてるんだろう、何か仕事で大変なヘマした記憶もない。
「捕まえて来たぞオー!ナツー!こいつこいつ!」
シュン、とドアが閉まった音と、ピピッという施錠音がしたあと突然肩を叩かれて、サザナミ大佐がそんな砕けた話し方をしだす。えっ、なに、なんなんだろうほんと。流石の俺でもついていけないなあー。
「おおー、その子かあー、…待てよソゾ、お前説明もろくにしないで連れてきたろう」
「此処で説明するからいいんじゃね?」
「良くない良くない」
黒い瞳の、瞳孔部分だけが鮮やかな緑の光を湛えているその人が、俺を見てごめんな、と言う。いいえと言えば良いんだろうか?ほんとですよって返すべきなんだろうか?
「リーンハルト・アロン君、俺はナツヒコ・リンドウ、階級は大佐だ、初めまして」
「はっ。お初にお目にかかりますリンドウ大佐。何か自分に用件でしたか」
「ああ、たいしたことじゃないんだよ」
「そおそお」
「お前も自己紹介くらいしておけよ、彼カタシロの部下なんだから」
「おぉ、悪い悪い。ソゾ・サザナミだ、宜しくな」
「はっ、サザナミ大佐の事は何度かお見かけしておりましたので存じておりました」
「真面目だなあ」
「普通上官に囲まれて砕ける方があれだろ」
「そっか?」
「お前は砕けるタイプだったからわからんだろうけど」
カタシロ大佐の名前を出された、ということは大佐の事で何か俺に聞くことがあったりするんだろうか。いやでも大佐の部下だと認識していらっしゃるだけで別件と言う可能性もあるし。
「とりあえず外すかこれ。つけててもアロン君が緊張しそうだし」
「あーそうだなあ」
一応目印になっているマントなんだけどそんなあっさり外して良いんだろうか。どのみち階級を知ってしまったから変わらないんだけど…。
「アロン君、ソゾから何の説明もなくてすまなかったね、重要なこととかじゃないんだ。むしろその逆というか」
「は…?逆、ですか」
「カタシロと付き合ってんだろ?」
びくっと自分の体が震えたのをはっきり自覚してしまう。えっ、あ、やばいかな?絶対ばれないようにしてたつもりなのに、バレてたのか?だとしたら、大佐に御迷惑が、
「カタシロ本人から聞いたから安心してくれ、君は何もミスはしていないから。俺達はカタシロと同期なんだよ」
ソゾ、とリンドウ大佐が咎めるようにサザナミ大佐のことを隻眼で睨んでいる。
「俺なんかした?」
「デリカシーがないんだよなあお前は昔から、アロン君に謝罪して」
「ええ…?えっとー、びっくりさせてごめんなリーンハルト」
「えっ、や、そ、その、えっ」
「飯奢らなくっちゃ許さないってよ」
「えええっ!?」
「ナツ!お前勝手に意訳するなよ!!リーンハルト全然そんなの言ってねえじゃん!」
「説明しないで引っ張ってきたソゾが悪いんですー」
うぐぐ、と唸りながらサザナミ大佐がリンドウ大佐をにらんでいるけど、リンドウ大佐はなんてことはない顔で見ているばかりだ。
「え、え、と、あの」
「あ、悪い悪い。話があるっていうか、悪いんだけど、ソゾの相談に乗ってやってくれるか?ついでに」
「ついでに?!」
「いやあ、入館情報見たらリーンハルトって見つけたからもしかしてカタシロの可愛い彼氏君居るんだろうなあって思ってさあ、じゃあ見てみようぜってことで探したんだよ」
「えっ、探されたんですか!?自、自分を!?」
「まさかダチの彼氏見たさに放送で呼びつけるのは出来ねえじゃん?」
大佐クラスの方が俺を探して、この中継基地内をうろうろされていたのかという事実になんというか意識がどっかいきそうになる。普通に艦内放送で呼び出してください、もういっそそっちの方が良い。
「ごめんな、君も忙しいだろうに」
「い、いや、お、お二人の方がお忙しいかと思われるのですが」
「折角カタシロの彼氏がいるんだ、そっちのが興味あるだろ」
「ソゾだけだそれは」
「ナツだって気になるかもっていってた!」
「言ったけど連れてこいとは申しあげてないんですがぁソゾ・サザナミ大佐殿ぉ」
「くっそむかつくその言い方ーーー!!!!」
サザナミ大佐がリンドウ大佐の胸倉をつかんで揺さぶっているんだけど、喧嘩というよりじゃれているという印象を強く受けてしまう程度にはお互い笑顔が浮かんでいる。
「…あ、リンドウ、大佐…というと」
「え?俺?」
「……あの、間違っていたら申し訳ないのですが、ユーディルガー軍曹殿の…」
「ああ、ユゥのこと知って…ん?……確か君は諜報部だったか。……そうか、ユゥのとこで訓練した子か」
「はっ、軍曹殿には大変お世話に…あの、ご結婚された、とお伺いしておりますが…」
「ああーそう、そうなんだよ」
「おめでとうございます」
「んんん、ありがとうなあ、良い子だなあ、さすがユゥのとこの子だなあ」
「急にデレっとするなよお前」
「ダーリンの話されたらデレっとするだろ。お前だってそうだろ」
「まあな」
きょろきょろと二人を視線だけで見比べてしまう。つまり、二人とも恋人がいらっしゃって、俺が大佐とお付き合いしているのを知っていて、呼びだしたと、いう事でいいんだろうなあ。
「なあなあ、リーンハルトってカタシロとシた?」
「ソゾッ!!」
「いだだだだ」
突然の話題にまたびっくりして固まると目の前でリンドウ大佐の獣の手がぎゅうっとサザナミ大佐の耳を引っ張っている。シた、シたか?ってキスとかじゃあなくてつまり、そういうことでいいんだろうか?いや、あんまりにも単刀直入過ぎる。答えたくないし。シたかシてないかでいえば、まだ、全然、シたことないんだけど。
「ナツはだってシてないんだろぉ…」
「俺もユゥも忙しいからな」
「リーンハルトはほら、若いから、年頃ジャン」
「この前デリカシーがないってカタシロにどやされたの忘れたのかお前」
「あいつがデリカシー過剰過ぎると思わない?」
「全然思わない」
「ええ……」
「ええじゃない。ミケに愛想つかされても知らんぞ」
「それはいやだあ」
うう、と顔をしかめたサザナミ大佐を見るに、「ミケ」さんという人の事が好きなんだろうなあと察することが出来るくらいには酷く嫌だという感情が出ていてわかりやすいと思ってしまう。
「ええーーーっとぉ………」
「アロン君はただ巻き込まれた被害者だから黙秘していいからな、カタシロのプライベートでもあるし」
「ええーー!ナツ勝手に」
「うわーカタシロに言ってやろー!ソゾがお前の彼氏連れまわして困らせてたって!ぜーーーったいおっかないぞ!」
「お、おい!シャレになんねえよ!!やめて?!!」
「カ、カタシロ大佐はそんな、そんなことはしませんから、その」
そういうと二人そろってきょとん、としたあと、顔を見合わせて、それからサザナミ大佐が神妙な顔で俺の両肩に手をのせてくる。えっ、何。なんだろう。
「あのな、一個、教えておくけど…カタシロのやつ、お前の事無茶苦茶に好きだと思うから、絶対ちゃんと怒るから、自信持っとけ」
何の自信を。
「そうだな、カタシロ、君の事大事にしているようだから…普通に怒ると思うんだ」
なんで俺上官二人に「お前の恋人お前の事大好きだから平気」って言われてるんだろう。えっ、ていうか、そ、そうなのかな。大佐、あまりそういうの顔に出されないから、わからない…。
「カタシロはほら、落ち着いてるんだろ多分、リーンハルトの前だと」
「それは、はあ、まあ」
「すっげえ好きだなって思ってるはずだから、大丈夫」
「だ、だいじょうぶ、ですか」
うんうん、と二人同時に頷かれる。
えっ…それは、その、なんか、嬉しい、ような、人から聞いたのが悔しいような気がするけど、やっぱ嬉しい、ような。
「ちなみにデートした?」
「黙秘してよろしいです?」
「くっそーーーーだめかあーーーー」
「ばあか」
「俺だってミケとデートしたいの!!してる可能性あるのカタシロとリーンハルトじゃんっ…!!カタシロに聞くのは怖いし…」
「絶対引きずり回される、違いない」
「だろ…?」
サザナミ大佐を引きずり回すカタシロ大佐がまるで想像できない。
「ちなみにカタシロが好きなものはさあ」
「あ、聞かなかったことにいたしますね、それでもよろしかったらどうぞ」
「こいつーーー!!!!くっそーー…カタシロのやついい男捕まえたなあ……」
「お前より賢いしな絶対」
「お!?俺だって賢いだろ!」
「知ってる知ってる」
「ナツ、俺の扱いが雑」
「雑に扱ってもソゾは逞しく育つ子だろ」
「そぉだけどね」
「えらいぞーソゾー」
「おっ、どんどん褒めてくれよ、まだまだ褒めれば伸びしろあるぜ俺」
そんな会話を交わしながらなんだか楽しそうにされている。とりあえず、黙秘をしても聞かないといってもお二人とも無理やり聞き出そう、という気はないらしくて安心する。
「あの、サザナミ大佐殿はその「ミケ」さんという方とお付き合いされらっしゃるんですか」
「おおーそーなんだよー付き合いたてほやほやでさあ」
「シャイな奴なんだけどな……よくソゾと付き合う気になったなあ」
「ミケは俺の事すげー好きなんだって」
「あ、そぉなの?はあー」
「いいだろー愛されてるだろー俺ー」
「いや俺も負けてないから」
「お前とユーディルガーには正直いって負けるわ」
「ふふん」
すこし誇らしげに笑ったリンドウ大佐を見るに、本当に好き合っていらっしゃるんだなあと改めて思う。度々、訓練兵だったころにユーディルガー軍曹殿がリンドウ大佐の事を話していたのは聞いていたけど。実際見てとても優しそうな方だなと思う。
「ええと、シャイなのでしたら室内でも宜しいんじゃないですか?人が多いと委縮されるかもしれませんし」
「室内で二人きりか……我慢できるかな俺」
「紳士的にそこは我慢しろ…歳考えろよ」
「いやちょっと、…ミケが可愛すぎてダメになっちゃうかもしれない……」
「ダメになるなよそこは」
「いやだってさ、いくら可愛いっていっても伝えきれてない気がするじゃん?俺がめちゃくちゃミケの事大好きだってわかってほしいだろ」
「気持ちはわかるんだけど、ミケの許容量とか考えてやれよな」
「シャイな方ってサザナミ大佐が思う以上に手いっぱいになられますよ」
「うそぉ……えぇ……問題だなあ」
ううん、と呻きながらも頑張ってみる、とおっしゃるサザナミ大佐は大雑把に見えてもきちんと出来た方なんだなあと思う。ただ、うん、直接的に聞きすぎるけれど。
「はあーやばいな、ミケにもっと俺の事好きになってほしいからなあ、難しい」
「お前情熱的な奴だなあ」
「一途で情熱的だろ?良い物件だと思うんだけど」
「ミケ的にはこれ以上ないって感じするからそのままでもいいだろ」
「いやあ、もっとミケが好きになってくれる男になりたいじゃん??」
まあ、サザナミ大佐のおっしゃることは、わからなくもないなあと思って聞いてしまう。
「リーンハルトだってカタシロにもっと好きになってほしいとか思わねえ?」
「えっ、は、はあ、その……まあ、もう少し一人前の男として見て頂けたらなあ、とは思って努力はしております」
「いっじらしいこいつ」
「こいつっていうな」
「じゃあこのこ」
「この子、ううん、まあいいか」
「俺がカタシロだったら帰ってくるたびキスしてやるのになあ、あいつそういうのしそうにないじゃん」
されたこともないしカタシロ大佐とサザナミ大佐は逆のタイプに見えるんだなあと思いつつ黙しているのがいいと判断して聞く側に徹している。
「カタシロはクールだからしないだろ」
「わかんないぞ?してるかもしれない」
「いや、しないだろ」
「する?」
「えっ、や、致しませんが」
「ほらみろお」
「くっそ、意外とギャップあるんじゃないかと思ったのに…」
「知ってどうすんだよ」
「お揃いだなあって言えるだろ」
「自分から引きずり回されに行くような選択肢するなよ」
本当にその、「引きずり回すカタシロ大佐」の図がイメージできない。物静かで落ち着いた方、という印象があまりにも強すぎて、お二人が言っている、その、怒ったり、なにかしたり、みたいな大佐がいまいちかけ離れている。俺が知らないだけなんだろうけど。
「カタシロ大佐、ってその、そんなに、その、」
「ああ、今は落ち着いてるから別にだけど、ソゾとは昔からカタシロのやつ喧嘩友達してるから、イメージつかないよなあ」
「喧嘩…カタシロ大佐がですか」
「喧嘩しちゃうほど仲良しだからな俺とカタシロ」
「大概ソゾが怒らせてるだけだろ、学習しないなあ」
「カタシロがいつまでたってもだって」
「だってじゃない、お前も落ち着きなさい」
「ンん…はぁい」
「よろしい」
年の差は詰めることが出来ないから致し方ないとは言え、俺の存じない大佐を知っていらっしゃる二人が少し羨ましいとも思う。
「ソゾはアロン君を見習いなさい」
「わかったわかった」
「えっ、自、自分ですかぁ?」
「落ち着いているし肝も据わってると思う、カタシロの部下で無かったら俺は君を部下に誘いたいくらいだよ」
「ユーディルガーが育てた子だし?」
「まあまあ、それもあるけど、それを置いてもだな…誠実そうなのが好ましい」
「ありがとうございます」
「カタシロももう少しイチャイチャしてやればいいのにな」
「していたとしても見せないだろ」
「わかる」
いやまず俺も、いちゃつけていたとしてもそんな事絶対、大佐のご友人であっても話さないと思うし、と考えていると、端末の通話のコール音が鳴ってサザナミ大佐が画面を見て、う、とうめいた。
「カタシロはなんか俺にセンサーでもはってんのかよお」
もしもし、とサザナミ大佐が通話に出た声と、端末から少し零れて来た大佐の怒った様な声にきょとんとしてしまった。
まだまだ、知らない大佐の一面は多いらしい。
そう声をかけられたのは中継基地に寄った時の事だった。カタシロ大佐と同じくらいあるだろう背丈の、赤茶の長い髪を下の方でゆったりと結わえた髪型をした人。紫のマントをつけているので、階級が上だろう、というのと、確か、見たことがあるなと思う。多分記憶違いでなければソゾ・サザナミ大佐、とおっしゃったはずだ。
「はっ、そうですが…」
「お前に話がある、ついて来い」
「ぇ…は、はぁ」
何だろう、とあれこれ考えながら後を追う。すれ違う人たちが珍しそうに見てくるんだけど、そりゃあ、大佐クラスが上等兵の俺如き、しかも部下でもなんでもない奴に声かけて呼び出してたらそんな顔しますよねえと思う。サザナミ大佐は穏やかそうな顔だし、評判も悪いことは聞かない。本当俺に何の用事が、と思いながら連れてこられたのは上官が使う多目的の部屋だ。セキュリティが他よりがっちりしてる奴。内密な話、とかなんだろうか。
「入れ」
「は、はあ」
言われて中もろくに確認しないで(したらしたで何か勘繰られそうだからしないで正解なんだろうけど)入ったら、中にもう一人。同じ紫のマントを羽織っている人がいる。特徴的なのは下半身が獣人系っぽい、というところだ。人数も人数な軍だから、正直サザナミ大佐は存じていても目の前の方がどちらさんか、なんて想像がつかないし何で俺上官二人に挟まれてるんだろう、何か仕事で大変なヘマした記憶もない。
「捕まえて来たぞオー!ナツー!こいつこいつ!」
シュン、とドアが閉まった音と、ピピッという施錠音がしたあと突然肩を叩かれて、サザナミ大佐がそんな砕けた話し方をしだす。えっ、なに、なんなんだろうほんと。流石の俺でもついていけないなあー。
「おおー、その子かあー、…待てよソゾ、お前説明もろくにしないで連れてきたろう」
「此処で説明するからいいんじゃね?」
「良くない良くない」
黒い瞳の、瞳孔部分だけが鮮やかな緑の光を湛えているその人が、俺を見てごめんな、と言う。いいえと言えば良いんだろうか?ほんとですよって返すべきなんだろうか?
「リーンハルト・アロン君、俺はナツヒコ・リンドウ、階級は大佐だ、初めまして」
「はっ。お初にお目にかかりますリンドウ大佐。何か自分に用件でしたか」
「ああ、たいしたことじゃないんだよ」
「そおそお」
「お前も自己紹介くらいしておけよ、彼カタシロの部下なんだから」
「おぉ、悪い悪い。ソゾ・サザナミだ、宜しくな」
「はっ、サザナミ大佐の事は何度かお見かけしておりましたので存じておりました」
「真面目だなあ」
「普通上官に囲まれて砕ける方があれだろ」
「そっか?」
「お前は砕けるタイプだったからわからんだろうけど」
カタシロ大佐の名前を出された、ということは大佐の事で何か俺に聞くことがあったりするんだろうか。いやでも大佐の部下だと認識していらっしゃるだけで別件と言う可能性もあるし。
「とりあえず外すかこれ。つけててもアロン君が緊張しそうだし」
「あーそうだなあ」
一応目印になっているマントなんだけどそんなあっさり外して良いんだろうか。どのみち階級を知ってしまったから変わらないんだけど…。
「アロン君、ソゾから何の説明もなくてすまなかったね、重要なこととかじゃないんだ。むしろその逆というか」
「は…?逆、ですか」
「カタシロと付き合ってんだろ?」
びくっと自分の体が震えたのをはっきり自覚してしまう。えっ、あ、やばいかな?絶対ばれないようにしてたつもりなのに、バレてたのか?だとしたら、大佐に御迷惑が、
「カタシロ本人から聞いたから安心してくれ、君は何もミスはしていないから。俺達はカタシロと同期なんだよ」
ソゾ、とリンドウ大佐が咎めるようにサザナミ大佐のことを隻眼で睨んでいる。
「俺なんかした?」
「デリカシーがないんだよなあお前は昔から、アロン君に謝罪して」
「ええ…?えっとー、びっくりさせてごめんなリーンハルト」
「えっ、や、そ、その、えっ」
「飯奢らなくっちゃ許さないってよ」
「えええっ!?」
「ナツ!お前勝手に意訳するなよ!!リーンハルト全然そんなの言ってねえじゃん!」
「説明しないで引っ張ってきたソゾが悪いんですー」
うぐぐ、と唸りながらサザナミ大佐がリンドウ大佐をにらんでいるけど、リンドウ大佐はなんてことはない顔で見ているばかりだ。
「え、え、と、あの」
「あ、悪い悪い。話があるっていうか、悪いんだけど、ソゾの相談に乗ってやってくれるか?ついでに」
「ついでに?!」
「いやあ、入館情報見たらリーンハルトって見つけたからもしかしてカタシロの可愛い彼氏君居るんだろうなあって思ってさあ、じゃあ見てみようぜってことで探したんだよ」
「えっ、探されたんですか!?自、自分を!?」
「まさかダチの彼氏見たさに放送で呼びつけるのは出来ねえじゃん?」
大佐クラスの方が俺を探して、この中継基地内をうろうろされていたのかという事実になんというか意識がどっかいきそうになる。普通に艦内放送で呼び出してください、もういっそそっちの方が良い。
「ごめんな、君も忙しいだろうに」
「い、いや、お、お二人の方がお忙しいかと思われるのですが」
「折角カタシロの彼氏がいるんだ、そっちのが興味あるだろ」
「ソゾだけだそれは」
「ナツだって気になるかもっていってた!」
「言ったけど連れてこいとは申しあげてないんですがぁソゾ・サザナミ大佐殿ぉ」
「くっそむかつくその言い方ーーー!!!!」
サザナミ大佐がリンドウ大佐の胸倉をつかんで揺さぶっているんだけど、喧嘩というよりじゃれているという印象を強く受けてしまう程度にはお互い笑顔が浮かんでいる。
「…あ、リンドウ、大佐…というと」
「え?俺?」
「……あの、間違っていたら申し訳ないのですが、ユーディルガー軍曹殿の…」
「ああ、ユゥのこと知って…ん?……確か君は諜報部だったか。……そうか、ユゥのとこで訓練した子か」
「はっ、軍曹殿には大変お世話に…あの、ご結婚された、とお伺いしておりますが…」
「ああーそう、そうなんだよ」
「おめでとうございます」
「んんん、ありがとうなあ、良い子だなあ、さすがユゥのとこの子だなあ」
「急にデレっとするなよお前」
「ダーリンの話されたらデレっとするだろ。お前だってそうだろ」
「まあな」
きょろきょろと二人を視線だけで見比べてしまう。つまり、二人とも恋人がいらっしゃって、俺が大佐とお付き合いしているのを知っていて、呼びだしたと、いう事でいいんだろうなあ。
「なあなあ、リーンハルトってカタシロとシた?」
「ソゾッ!!」
「いだだだだ」
突然の話題にまたびっくりして固まると目の前でリンドウ大佐の獣の手がぎゅうっとサザナミ大佐の耳を引っ張っている。シた、シたか?ってキスとかじゃあなくてつまり、そういうことでいいんだろうか?いや、あんまりにも単刀直入過ぎる。答えたくないし。シたかシてないかでいえば、まだ、全然、シたことないんだけど。
「ナツはだってシてないんだろぉ…」
「俺もユゥも忙しいからな」
「リーンハルトはほら、若いから、年頃ジャン」
「この前デリカシーがないってカタシロにどやされたの忘れたのかお前」
「あいつがデリカシー過剰過ぎると思わない?」
「全然思わない」
「ええ……」
「ええじゃない。ミケに愛想つかされても知らんぞ」
「それはいやだあ」
うう、と顔をしかめたサザナミ大佐を見るに、「ミケ」さんという人の事が好きなんだろうなあと察することが出来るくらいには酷く嫌だという感情が出ていてわかりやすいと思ってしまう。
「ええーーーっとぉ………」
「アロン君はただ巻き込まれた被害者だから黙秘していいからな、カタシロのプライベートでもあるし」
「ええーー!ナツ勝手に」
「うわーカタシロに言ってやろー!ソゾがお前の彼氏連れまわして困らせてたって!ぜーーーったいおっかないぞ!」
「お、おい!シャレになんねえよ!!やめて?!!」
「カ、カタシロ大佐はそんな、そんなことはしませんから、その」
そういうと二人そろってきょとん、としたあと、顔を見合わせて、それからサザナミ大佐が神妙な顔で俺の両肩に手をのせてくる。えっ、何。なんだろう。
「あのな、一個、教えておくけど…カタシロのやつ、お前の事無茶苦茶に好きだと思うから、絶対ちゃんと怒るから、自信持っとけ」
何の自信を。
「そうだな、カタシロ、君の事大事にしているようだから…普通に怒ると思うんだ」
なんで俺上官二人に「お前の恋人お前の事大好きだから平気」って言われてるんだろう。えっ、ていうか、そ、そうなのかな。大佐、あまりそういうの顔に出されないから、わからない…。
「カタシロはほら、落ち着いてるんだろ多分、リーンハルトの前だと」
「それは、はあ、まあ」
「すっげえ好きだなって思ってるはずだから、大丈夫」
「だ、だいじょうぶ、ですか」
うんうん、と二人同時に頷かれる。
えっ…それは、その、なんか、嬉しい、ような、人から聞いたのが悔しいような気がするけど、やっぱ嬉しい、ような。
「ちなみにデートした?」
「黙秘してよろしいです?」
「くっそーーーーだめかあーーーー」
「ばあか」
「俺だってミケとデートしたいの!!してる可能性あるのカタシロとリーンハルトじゃんっ…!!カタシロに聞くのは怖いし…」
「絶対引きずり回される、違いない」
「だろ…?」
サザナミ大佐を引きずり回すカタシロ大佐がまるで想像できない。
「ちなみにカタシロが好きなものはさあ」
「あ、聞かなかったことにいたしますね、それでもよろしかったらどうぞ」
「こいつーーー!!!!くっそーー…カタシロのやついい男捕まえたなあ……」
「お前より賢いしな絶対」
「お!?俺だって賢いだろ!」
「知ってる知ってる」
「ナツ、俺の扱いが雑」
「雑に扱ってもソゾは逞しく育つ子だろ」
「そぉだけどね」
「えらいぞーソゾー」
「おっ、どんどん褒めてくれよ、まだまだ褒めれば伸びしろあるぜ俺」
そんな会話を交わしながらなんだか楽しそうにされている。とりあえず、黙秘をしても聞かないといってもお二人とも無理やり聞き出そう、という気はないらしくて安心する。
「あの、サザナミ大佐殿はその「ミケ」さんという方とお付き合いされらっしゃるんですか」
「おおーそーなんだよー付き合いたてほやほやでさあ」
「シャイな奴なんだけどな……よくソゾと付き合う気になったなあ」
「ミケは俺の事すげー好きなんだって」
「あ、そぉなの?はあー」
「いいだろー愛されてるだろー俺ー」
「いや俺も負けてないから」
「お前とユーディルガーには正直いって負けるわ」
「ふふん」
すこし誇らしげに笑ったリンドウ大佐を見るに、本当に好き合っていらっしゃるんだなあと改めて思う。度々、訓練兵だったころにユーディルガー軍曹殿がリンドウ大佐の事を話していたのは聞いていたけど。実際見てとても優しそうな方だなと思う。
「ええと、シャイなのでしたら室内でも宜しいんじゃないですか?人が多いと委縮されるかもしれませんし」
「室内で二人きりか……我慢できるかな俺」
「紳士的にそこは我慢しろ…歳考えろよ」
「いやちょっと、…ミケが可愛すぎてダメになっちゃうかもしれない……」
「ダメになるなよそこは」
「いやだってさ、いくら可愛いっていっても伝えきれてない気がするじゃん?俺がめちゃくちゃミケの事大好きだってわかってほしいだろ」
「気持ちはわかるんだけど、ミケの許容量とか考えてやれよな」
「シャイな方ってサザナミ大佐が思う以上に手いっぱいになられますよ」
「うそぉ……えぇ……問題だなあ」
ううん、と呻きながらも頑張ってみる、とおっしゃるサザナミ大佐は大雑把に見えてもきちんと出来た方なんだなあと思う。ただ、うん、直接的に聞きすぎるけれど。
「はあーやばいな、ミケにもっと俺の事好きになってほしいからなあ、難しい」
「お前情熱的な奴だなあ」
「一途で情熱的だろ?良い物件だと思うんだけど」
「ミケ的にはこれ以上ないって感じするからそのままでもいいだろ」
「いやあ、もっとミケが好きになってくれる男になりたいじゃん??」
まあ、サザナミ大佐のおっしゃることは、わからなくもないなあと思って聞いてしまう。
「リーンハルトだってカタシロにもっと好きになってほしいとか思わねえ?」
「えっ、は、はあ、その……まあ、もう少し一人前の男として見て頂けたらなあ、とは思って努力はしております」
「いっじらしいこいつ」
「こいつっていうな」
「じゃあこのこ」
「この子、ううん、まあいいか」
「俺がカタシロだったら帰ってくるたびキスしてやるのになあ、あいつそういうのしそうにないじゃん」
されたこともないしカタシロ大佐とサザナミ大佐は逆のタイプに見えるんだなあと思いつつ黙しているのがいいと判断して聞く側に徹している。
「カタシロはクールだからしないだろ」
「わかんないぞ?してるかもしれない」
「いや、しないだろ」
「する?」
「えっ、や、致しませんが」
「ほらみろお」
「くっそ、意外とギャップあるんじゃないかと思ったのに…」
「知ってどうすんだよ」
「お揃いだなあって言えるだろ」
「自分から引きずり回されに行くような選択肢するなよ」
本当にその、「引きずり回すカタシロ大佐」の図がイメージできない。物静かで落ち着いた方、という印象があまりにも強すぎて、お二人が言っている、その、怒ったり、なにかしたり、みたいな大佐がいまいちかけ離れている。俺が知らないだけなんだろうけど。
「カタシロ大佐、ってその、そんなに、その、」
「ああ、今は落ち着いてるから別にだけど、ソゾとは昔からカタシロのやつ喧嘩友達してるから、イメージつかないよなあ」
「喧嘩…カタシロ大佐がですか」
「喧嘩しちゃうほど仲良しだからな俺とカタシロ」
「大概ソゾが怒らせてるだけだろ、学習しないなあ」
「カタシロがいつまでたってもだって」
「だってじゃない、お前も落ち着きなさい」
「ンん…はぁい」
「よろしい」
年の差は詰めることが出来ないから致し方ないとは言え、俺の存じない大佐を知っていらっしゃる二人が少し羨ましいとも思う。
「ソゾはアロン君を見習いなさい」
「わかったわかった」
「えっ、自、自分ですかぁ?」
「落ち着いているし肝も据わってると思う、カタシロの部下で無かったら俺は君を部下に誘いたいくらいだよ」
「ユーディルガーが育てた子だし?」
「まあまあ、それもあるけど、それを置いてもだな…誠実そうなのが好ましい」
「ありがとうございます」
「カタシロももう少しイチャイチャしてやればいいのにな」
「していたとしても見せないだろ」
「わかる」
いやまず俺も、いちゃつけていたとしてもそんな事絶対、大佐のご友人であっても話さないと思うし、と考えていると、端末の通話のコール音が鳴ってサザナミ大佐が画面を見て、う、とうめいた。
「カタシロはなんか俺にセンサーでもはってんのかよお」
もしもし、とサザナミ大佐が通話に出た声と、端末から少し零れて来た大佐の怒った様な声にきょとんとしてしまった。
まだまだ、知らない大佐の一面は多いらしい。