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【セルイダ】少しずつの歩き方
2019/03/08 00:21セルベル×イダ(男女)雨の日のふたり
「止みませんね、雨」
隣に座って静かに頷く女性は、常から物静かだったが、こうして雨音が強いとその静かさが際立つようで、居るとわかっていながらもつい視線を向けてしまう。先ほどまで良い天気だったというのに山の天気は変わりやすい、とは言うものの、急な雨に降られ、近くの小屋に駆け込んだ。
イダ、という隣に座る女性は傭兵だ。空いた時間にわざわざ自分の宿に足を運んでくれる人だった。いつも昼食の頃にきて、隅の席か、カウンターの端の方に座って、決まったメニューを食べて帰っていく人。裏手で作業をノニンさんと行っていればいつもちょこんと、いつの間にやら近くでしゃがんでみている人。自分がついつい夢中で話す長い趣味の事も静かに嫌な顔せず頷いて聞いてくれる人。一緒にいて、落ち着く人で、居ないと少しだけ寂しくて、気がつけば、そっと手を繋ぐ仲になっていて。
「(あ、しまった)」
今日は秋の山菜を採りに来た。イダさんもどうですか?と、この後は暇だというのを聞いて誘って見れば彼女は少しだけ嬉しそうにして、頷いてついてきてくれたのだが、思うにこれは、デートなのではないだろうか、と気がついてしまう。そんな気がしている。そこに思考が至ってしまうと意識してしまうもので、顔が今更熱を持つ。
自然に手を繋ぐ仲になって、細やかながら好意を互いに確認もし終えていて、それでも隣にいるのがもう、なんというか収まりがよく、もっといえばそれがもう当たり前のような感覚になっていたのだが思えば自分とイダはデートらしいことをした記憶がない。彼女からなんら申し出もなかったし、自分も気が利く方ではなく、今更ながらノニンさんが「どこか彼女を誘って散歩に行くのも良いと思うが」と言っていた意味を理解して顔を覆ってしまう。女性に気が利かないのを今、猛省している。
「……どうか、したの?」
雨音に紛れて掻き消えそうな声に顔を上げると心配そうな彼女がこちらを見ている。
「あ、やっ、えっと、あ、…そ、その、いや、なんでもなくて、うん、いや、ええと」
「……?」
おろおろとしながら、話題をと探しても、会話が浮かばずに開いた口を閉じて俯いてしまう。
「す、すいません、気が利いた話が、できたら、良かった…のに、俺」
「ううん、いい……」
セルベルさんと二人きりだから、と聞こえた声に顔に熱が集まるのを自覚して、彼女を見れば、目じりが赤い。こちらの視線に気がついた彼女がふと顔を上げ、それから、マスクをしているのでわからないが、目元が少しだけ恥ずかしそうに伏せられ、笑った、かもしれない。
「デートみたい、で、ごめんなさい、…私」
両の手を、口元を隠すように添えてそんなことをいう彼女に胸が締め付けられるような感覚を覚え、しかし、急に抱きしめるのはいけないことのようで、ぎゅっと下唇を噛む。何度か噛みしめ、痛さがわからない頃、やっと腹がくくれた。
「今度、デート、しませんか……」
「ぇ」
「し、したこと、なかった、ですよね…だから、えっと、お買い物、でも」
「…………」
おろした両手を合わせ、指先をそわそわとさせる彼女の言葉をじっと待つ。拒絶はされないと思うのは傲慢かもしれないが、でも、はいと言ってくれそうな気もして、
「うん……したい、です」
耳まで赤くした彼女につられて、顔全部が、熱くなっていくのを自覚して、
「じゃ、じゃあ、今度、誘いたい、です」
たどたどしく告げれば、彼女がそっと人差し指と中指を握ってくれた。
◇ ◇ ◇
可愛いカップル描いちゃったー様から
本当は傘に隠れてキスだったんですが仲良くなっただけでした
隣に座って静かに頷く女性は、常から物静かだったが、こうして雨音が強いとその静かさが際立つようで、居るとわかっていながらもつい視線を向けてしまう。先ほどまで良い天気だったというのに山の天気は変わりやすい、とは言うものの、急な雨に降られ、近くの小屋に駆け込んだ。
イダ、という隣に座る女性は傭兵だ。空いた時間にわざわざ自分の宿に足を運んでくれる人だった。いつも昼食の頃にきて、隅の席か、カウンターの端の方に座って、決まったメニューを食べて帰っていく人。裏手で作業をノニンさんと行っていればいつもちょこんと、いつの間にやら近くでしゃがんでみている人。自分がついつい夢中で話す長い趣味の事も静かに嫌な顔せず頷いて聞いてくれる人。一緒にいて、落ち着く人で、居ないと少しだけ寂しくて、気がつけば、そっと手を繋ぐ仲になっていて。
「(あ、しまった)」
今日は秋の山菜を採りに来た。イダさんもどうですか?と、この後は暇だというのを聞いて誘って見れば彼女は少しだけ嬉しそうにして、頷いてついてきてくれたのだが、思うにこれは、デートなのではないだろうか、と気がついてしまう。そんな気がしている。そこに思考が至ってしまうと意識してしまうもので、顔が今更熱を持つ。
自然に手を繋ぐ仲になって、細やかながら好意を互いに確認もし終えていて、それでも隣にいるのがもう、なんというか収まりがよく、もっといえばそれがもう当たり前のような感覚になっていたのだが思えば自分とイダはデートらしいことをした記憶がない。彼女からなんら申し出もなかったし、自分も気が利く方ではなく、今更ながらノニンさんが「どこか彼女を誘って散歩に行くのも良いと思うが」と言っていた意味を理解して顔を覆ってしまう。女性に気が利かないのを今、猛省している。
「……どうか、したの?」
雨音に紛れて掻き消えそうな声に顔を上げると心配そうな彼女がこちらを見ている。
「あ、やっ、えっと、あ、…そ、その、いや、なんでもなくて、うん、いや、ええと」
「……?」
おろおろとしながら、話題をと探しても、会話が浮かばずに開いた口を閉じて俯いてしまう。
「す、すいません、気が利いた話が、できたら、良かった…のに、俺」
「ううん、いい……」
セルベルさんと二人きりだから、と聞こえた声に顔に熱が集まるのを自覚して、彼女を見れば、目じりが赤い。こちらの視線に気がついた彼女がふと顔を上げ、それから、マスクをしているのでわからないが、目元が少しだけ恥ずかしそうに伏せられ、笑った、かもしれない。
「デートみたい、で、ごめんなさい、…私」
両の手を、口元を隠すように添えてそんなことをいう彼女に胸が締め付けられるような感覚を覚え、しかし、急に抱きしめるのはいけないことのようで、ぎゅっと下唇を噛む。何度か噛みしめ、痛さがわからない頃、やっと腹がくくれた。
「今度、デート、しませんか……」
「ぇ」
「し、したこと、なかった、ですよね…だから、えっと、お買い物、でも」
「…………」
おろした両手を合わせ、指先をそわそわとさせる彼女の言葉をじっと待つ。拒絶はされないと思うのは傲慢かもしれないが、でも、はいと言ってくれそうな気もして、
「うん……したい、です」
耳まで赤くした彼女につられて、顔全部が、熱くなっていくのを自覚して、
「じゃ、じゃあ、今度、誘いたい、です」
たどたどしく告げれば、彼女がそっと人差し指と中指を握ってくれた。
◇ ◇ ◇
可愛いカップル描いちゃったー様から
本当は傘に隠れてキスだったんですが仲良くなっただけでした