珍しいものを見た、と思わず気配を殺した。いつもであればセルベル・エルデの宿、裏手の方で地味な作業をしている男が、丸太に寄り掛かって眠っているらしい。男の素性は未だ知れないのだが、少なくとも、近くに人がいれば視線の一つでも動かすほどには過敏なのではないか、と踏んでいた。それがどうだ。自分が近づいても男は顔を上げる気配がない。
　まさか死んでいるわけではないだろう、と膝をついても、起きる気配など一向になく、深くかぶったフードの中で、血色の悪い肌と、微かな呼吸が聞こえる。浅く、早く。時々眉間にしわがきつく寄っている様子からして夢を見てはいるのだろうが良い夢ではないらしい。

「ノニン・シュトロムフト」

　肩を揺らして、きつく声をかけると大きく震えたあと、顔を上げきょろきょろとあたりを見渡す動作をして、こちらをやっと見る。

「あぁ……」

　大きく、ひとつ呼吸をする。

「レスライン殿…」

　酷く、穏やかな声と共に、己を守るかのように膝を抱え身を縮めた男は、何処か、幼い、と思う。思えてしまう。

「何を寝ぼけている」
「うん……少し、寝不足で……すまない」

　いつもは私を見れば視線を泳がす男が、眼をそらさずこちらを見てくる。優しく細められた目にぎくりと背中が固くなる。この男が、一度だけ見せたことのある穏やかで、その中に何があるのかとは考えたくない、酷く優しい顔を浮かべる。

「おい、」

　うつら、と何度か、瞼を重そうにしていた男の瞳が今一度深く、閉ざされる。先ほどより穏やかな呼吸のリズムと、寝顔。

「何故だ」

　どうしてだ、ともう一度起こそうと手を肩に置こうとして、迷う。

「何故、そんな顔をする、私に」

　震えながら、触れた頬の皮膚はかさついている。あの日、男がそうしたように、つ、と、指の腹でなぞり、かっと熱くなった自分の顔を自覚して手を引く。

「馬鹿な奴だ」

　嘘じゃない、と告げたあの泣きそうな顔を思い出す。

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可愛いカップル描いちゃったー様から
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