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【ゼノベル】ただ僅かなことさえも

2021/12/31 06:42
ゼノメンシス×インベル(男男)SSS100個書けるかな期間
「綺麗だな」

 何の気もないのだろうに、そう目を細めて笑う男にどうこたえて良いかわからない。前髪、といっても後ろへ流しているが、その生え際を指の腹がさっと撫でていった。

「お褒めに預かり、」
「今は我々しかいないのに、他人行儀なのだな」

 他人行儀にもなるだろう、お前と俺はもはや身分が違うんだから、と声にはせず静かに頭を垂れる。気を悪くした様子もないままふっと笑い声のような吐息が聞こえたことにいくらか安堵を覚えた。
 そもそもそんな心の狭い男ではないから、それこそ杞憂なのだが。

「王、」
「我々しかいないのだが」
「そういうわけには行きません、ご理解ください」

 昔は彼の事をゼノ、と呼んでいたが、今はそのような身分の対等さはない。彼はつれない、というもののお互いに立つべき場所はあの日わきまえあったつもりだし、私自身も、あの日からはここに立って、多くは望まず忠誠を誓おうと決めた。彼もそれは理解しているはずだ。

「そうだな、困らせてすまなかった」
「……貴方に困らせられるのは慣れていますよ」
「そうか、慣れさせてしまったか」
「別に、苦でもないことです」

 彼のために負う苦労なら問題ない。本当に何とも思わない。

「しかし急に綺麗だなんだと他の雄を褒めるのはやめるべきかと」
「まあ、我の言葉は重いからな、それはそうだ。……インベルにだから言うのだ。公私をきちんとわけているからな」
「それはそれで困りますな」

 嬉しい、と思ってしまう。それさえ罪深い、と思いながらも、その嬉しさは静かに、小さく心にとどめておいた。

× × × × × × ×
墓場まで恋心もっていくインベルさんをどうにかしたいと思って数年たったな

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