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【ノニエル】夜更けの雨音

2021/07/29 08:19
ノニン×エデルガルド(男女)SSS100個書けるかな期間
 窓を打つ音に、雨だ、と目を開けた。雨、ともう一度頭で認識して、眼を閉じる。ごうごうと落ちる雨の音はそれ以外全て、音を閉ざしているかのように思う。静かな寝室は自分の呼吸だけがあって、時折遠くでなる雷鳴に、ユッテが怖がって起きなければいいが、と心配する。
 心配はするが、今日は、一人ではないから大丈夫か、と思い、同時にじわじわと胸が苦しくなって、強くつかむ。
 彼女がこの家にいる、という事実を明確に頭で認識することをなるべく避けたいのに、してしまって、自分の頭を何か、壁でもなににでも打ち付けてしまいたい。それをするのは憚られるからただ、自室で呻くしかない。
 一人で勝手に緊張して、そんな年じゃないだろうにと言い聞かせても、無理だと悟る。だって、好きな人がいる。ここに。同じ空間に。
 でも、親密じゃない。わかっているのに舞い上がる自分がいて、そんな気持ちを殺してしまいたくなる。
 彼女の名前を口にしようとして止めて、顔が熱くなる。彼女はきっと嫌だろうに、俺は身勝手だ、と思う。それでもユッテは嬉しそうにしていたから、それは、あとで感謝を伝えなくてはと思い、強くなる雨の音に、邪な思考をかき交ぜて全て捨ててしまいたい。
 そろりと起き上がって、音をたてないように扉をあけ、水でも飲もうと台所に歩く。一杯、飲んだところでユッテの部屋の扉を見て、目を伏せる。

 向こうに彼女がいる、と思うと頭を抱えたくなって、自分の中のケダモノを抑える。今、今はただ、彼女と、娘が、そう、なにより娘が嬉しそうに、幸せに眠っていてくれればそれでいいんだ、と強く頭につなぎとめて、部屋に戻った。

 雨の音がする。雨に全て流してしまいたい。自分のどうしようもない衝動も、熱も、浅はかな、ものも。
× × × × × × ×

ひとりでもだもだするやつ

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