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ゆっくりでいいと彼が言う

2021/04/17 05:20
CP無しSSS100個書けるかな期間
 隣に腰かけて、端末を見せられて、どんな服が良いか、なんて聞かれて回答に困っている。ここにきて数日。恐怖も大きな声で起こされることも、髪を乱暴につかまれることもない数日。
 一人になれる部屋が与えられて、暖かく上質なんだろうベッドで眠ることを許されて、髪を優しく洗ってもらうばかりか、手入れまでされて、それから、その手は決してこちらを傷つける為ではない、優しいばかりの目的で伸ばされることに慣れるわけがないのに、今日はさらに困ってしまった。
 服をいくつか買いたい、と言われて、そんなの俺に相談しなくたって自分で買って自分で着ればいいのにと思った。思ったら、俺の服の話で困っている。
 どんなと言われても良し悪しはわからない。考えたこともない。脱ぎやすく替えの利く簡単な服しか着たことがない。

「よく、わかんない、んだけど」

 おずおずとそう言って見上げると、ホライゾンさんは優しく笑って、そうか、というだけだった。怒られるとかそういうのを少し想像したし、気分を損ねたらとも心配したが、どちらでもなかった。

「じゃあ、暖かい方がいい?涼しい方が良い?」
「え、っと、」
「そうだなあ……、動きやすい方がいい?着やすいとか、脱ぎやすい方が良い、とか」
「脱いだり、着たりが楽、なのが、いいかな……」

 ちらちらと顔色をうかがいながらそう答えると、にこにこと笑うホライゾンさんがいる。

「そっか、じゃあこれかなあ、こっちもいいかな」
「お、れ、お金ないんだけど」
「吾輩が好きで買うから気にしなくていいんだよぉ、そんなあ」
「でも、でも俺、あんたに、何も出来ないのに」
「ファゼット君、良いんだよ、何も出来なくったって吾輩は君を追い出さない」

 そう言ってホライゾンさんが背中にそっと掌をあててくれる。

「でも、だってさ、」
「ゆっくり、馴染んでくれたら嬉しいよ。こういわれるのは気に入らないかもしれないけど、君は子どもだ。急いで大人になろうとしなくていいし、何か役に立とうと背負い込まなくていいから」

 子どもとして在れ、とこの人は言う。許す。皆、誰もそんなことは言わなかったのにこの人は。
 その言葉がなんとも落ち着かないのに、なんでか、眼を熱くした。
× × × × × × ×
子ファゼットくんとホライゾンさん
おおきくなあれ・・・・・・

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